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2015年度

第341回ガスクロマトグラフィー研究会特別講演会開催報告

 2015年12月11日北とぴあ(東京都北区)13階飛鳥ホールにおいて、標記講演会が開催されました。「健康で豊かな生活を支えるガスクロマトグラフィー」の講演主題で、5演題の招待講演と6演題の技術講演が行われました。年末という繁忙な時期、また当日の朝は雨模様でしたが、約150名の参加者があり大盛況のうちに終了いたしました。

 招待講演1題目は神戸大学大学院医学研究科の吉田優先生より「メタボロミクスによるがんバイオマーカー探索」と題してご講演頂きました。メタボロミクスとは、生体試料に含まれる分子量1000以下の低分子代謝物群を、網羅的に定性・定量解析するものです。近年では、高分解能・高速かつ高感度な誘導体化後ガスクロマトグラフィー質量分析計を用いた測定とデータ解析の技術が進み、医学研究分野等においてバイオマーカー候補の検索に有用とされています。これは、様々な病態において、その疾患特有の代謝の変動が起こり、それが血液・尿中にも反映することが予想されるためです。消化器がんを中心としたがんバイオマーカー探索、早期疾患診断システム開発についての最新の研究成果をお話しいただきました。

 技術講演1題目はジーエルサイエンス株式会社の宮川浩美氏より「GC・GCMSによる代謝産物の一斉分析-定量に向けた情報共有-」と題してご講演頂きました。代謝産物の一斉分析で一般的に用いられている、オキシム化後にトリメチルシリル化を行ってGC/MSで測定する方法について、落とし穴に落ちないための情報共有を目的として、有機酸、アミノ酸、糖などの親水性化合物に関して得られた知見をご紹介いただきました。

 技術講演2題目は株式会社島津製作所の坂井健朗氏より「安定同位体と超高速GC-MS/MSを使用したヒト血漿中の代謝物の分析」と題してご講演頂きました。GC/MSを用いたヒト標準血漿中の代謝成分を高速で測定する方法を新たに検討し、各測定化合物の安定同位体を用いたピーク面積値の補正による再現性の大幅な向上、二つの分離カラムを直列に接続した系の採用による高速昇温分析で分析時間を約1/4に短縮する事が可能となりました。このメソッドの採用により、多検体実験における代謝分析のスループットの飛躍的向上ができると考えているとのことでデータベースと共に紹介されました。

 招待講演2題目は有限会社ピコデバイスの津田孝雄氏より「皮膚ガスから収得できる体の情報:香りと健康」と題してご講演頂きました。皮膚ガスは皮膚組織を経由して身体から放出されるため、体の変化を緩やかに全身的に反映します。また皮膚ガスは自律神経支配であるため、被験者の工夫により大きく変化することができないという特徴を有しています。皮膚ガスや呼気についての疾病との関連、採集器具、測定装置などについての現状、健康と疾病について幅広くお話しいただきました。

 招待講演3題目は株式会社伊藤園の小林誠氏より「LDL-コレステロールを減らすトクホ緑茶開発~カテキンによるコレステロール低下作用とその機構~」と題してご講演頂きました。緑茶カテキンは様々な健康機能性について研究されており、血清コレステロール低下作用についても多数報告されています。高コレステロール血症やLDL-コレステロールの上昇は、動脈硬化症疾患の重要なリスクファクターとなっています。同社はカテキンの血清コレステロール低下作用に着目し、ヒトにおいて効果を検証するとともに、特定保健用食品を開発し申請した知見を基に、ヒト試験結果及び血清コレステロール低下作用機構を中心にお話しいただきました。

 招待講演4題目は東北薬科大学の藤村務先生より「GC/MSによる呼気分析」と題してご講演頂きました。非侵襲的な食道扁平上皮がんの臨床マーカーの開発を目的として、食道扁平上皮がんにおける呼気中の臭気測定をSPMEファイバーで捕集しGC/MSを用いて分析を行い、食道癌に特異的な揮発性有機化合物を特定しました。患者群の臭気成分が健常者と明確に区別できることを確認し、特に4成分については食道がん患者で優位に上昇している事を見出し特許申請されました。非侵襲的で食道扁平上皮がんに特異的な診断法となる可能性を示しており、今後は検体数を増やすとともに、食道がんの深達度や進行度の比較を行うことで、より早期の食道がん診断についての利用を検討されるとのことでした。

 技術講演3題目は日本写真印刷株式会社の花田真理子氏より「半導体センサーGCを用いたアセトアルデヒド測定による食道がん高危険群スクリーニング」と題してご講演頂きました。飲酒によって摂取したアルコールの代謝産生物であるアセトアルデヒドは発がん物質であると認定されています。体内にアセトアルデヒドが滞留する時間が長くなると、食道がんの発症リスクが高くなります。少量のアルコール負荷後の呼気中アセトアルデヒド及びエタノールの濃度測定することにより、アルデヒド分解酵素ALDH2遺伝子型を持つ被験者を非侵襲に高精度に判定し、食道がん高危険群をスクリーニングする検査方法及び測定器についてご紹介いただきました。

 技術講演4題目はサーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社の榎本好宏氏より「高分解能・精密質量測定GCMS装置のご紹介」と題して、同社の新製品のオービトラップ検出器を搭載した高分解能で高感度なGC-MS/MSシステムと応用例についてご紹介いただきました。

 技術講演5題目はアジレント・テクノロジー株式会社の杉立久仁代氏より「マトリックス成分から見た食品中残留物分析」と題してご講演頂きました。食品中の残留農薬分析において、"汚い"検液といった言葉が使われていますが、それは検液の色が濃い、分析したクロマトグラムの対象化合物に夾雑成分が被って見えない、リテンションタイムが大きくずれた、などから判断しています。検液中にどのような夾雑成分が含まれているのかについては、分析対象とされていませんでした。これは、食品は多岐に渡るためその成分を調べるのが難しい、とされてきたためです。サンプルを誘導体化することで、検液中に入っている夾雑成分を詳細に調べることができ、この手法を用いると、精製度の比較や精製工程の見直しができるなど、有用な情報が得られることが明らかとなった、とご紹介いただきました。

 技術講演6題目は日本電子株式会社の奥田晃史氏より「エネルギー分野における質量分析計を用いたガス分析」と題して、水素、一酸化炭素、メタンなどを測定対象成分として同社の3つの異なるGC/MSを用いたガス分析事例や、ガス分析専用の多重周回飛行時間型質量分析計についてご紹介いただきました。

 招待講演5題目は株式会社ツムラの三枝弘和氏より「ツムラのガスクロマトグラフを用いた残留農薬に対する取り組みについて」と題してご講演頂きました。漢方薬は天然物由来である生薬を組み合わせて作られており、日本薬局方などの公定書においては残留農薬など安全性に関わる様々な基準が定められています。さらに同社では、独自の基準を設定し検査を実施することで、原料となる生薬、エキス末及び製剤の品質管理を徹底し、安全性を担保しています。GC-MS/MSにより農薬を正確に定量する残留農薬試験方法の開発における検討事例について、6種類の生薬に対するマトリックス効果抑制剤の抑制作用の評価結果をお話しいただきました。

 講演会終了後は17階の山海亭に場を移して意見交換会が行われました。数十年のキャリアを有する大ベテランから今後を担う新しい方まで大勢の参加者があり、活発な意見交換が行われました。参加者の親睦も深められ、大変有意義な時間を過ごすことができました。

〔国立研究開発法人産業技術総合研究所 渡邉卓朗〕

第341回GC懇会場風景

 

2015日中韓分析研究交流会シンポジウム参加報告

 今年のシンポジウムは韓国食品研究所が中心となり、韓国分析科学会、日中韓研究交流会が共同で運営にあたり韓国の釜山、グランドホテルで10月13日から15日に開催されました。昨年、11回目を東北大学(瀋陽、中国)のJuan-Hua Wang教授が大会会長として取りまとめ、今回の第12回目は韓国食品研究所(KFRI)のJae-Ho Ha博士が大会会長、副会長としてJin-Ming Lin教授(清華大、中国)、佐藤博教授(長崎国際大、日本)、日本側事務局はガスクロマトグラフィー研究懇談会の佐藤委員と前田委員長が務め、LC、FIA、IC、環境分析各研究懇談会の協力を得ました。参加者は韓国48名、日本18名、中国42名と韓国が協力しているモンゴルから3名と多数の方の参加を得て盛会でした。毎年参加者が増えており、学生や若手研究者の参加も多くなってきました。韓国も大学の研究者の発表が増加してきました。研究発表件数はプレナリー講演4件、キーノート講演23件、一般発表16件、ポスター発表34件で発表件数の多さと研究発表内容の広がりを感じました。発表件数が多かったので14日は1会場で朝8時から10時30分までプレナリー講演の後2部屋に別れて18時まで、翌15日は2会場で9時から11時まで発表が続きました。発表時間はプレナリーで30分、キーノートで20分、一般で15分とメリハリをつけ、質問も活発で進行は遅れ気味でしたが実りある研究発表会になりました。突然のプログラム変更や発表者が来ないなども無く、各国の研究レベルも高くオリジナルのアイデア紹介や最先端の研究が続きました。  会期中は晴天に恵まれ、会場の窓越しに対馬が望める絶好の天気でした。釜山は古くから大陸と日本との交流の窓口であり、この地で日中韓シンポジウムが開催された事は特別な意味があるように思いました。14日夜の意見交換会では各国の研究者がほぼ全員参加して意見交換と懇親を深めました。

 今回も学生の参加が多く、当初から変わらない会の主旨である友好と交流の目的が達成されたと思います。今回も、本研究交流会開催に対して(公社)日本分析化学会のご理解を得て国際交流の後援を頂きました。変わらぬご支援に対し深謝いたします。  次回は中国の武夷大学で開催を予定しており、福建省のいくつかの大学が協力するとの紹介がありました。時期は9月か10月頃との事なので決まり次第紹介いたしますので是非ともご予定ください。

国立研究開発法人 産業技術総合研究所 前田恒昭

2015日中韓シンポジウム Jae- ho Ha大会会長挨拶

2015日中韓シンポジウム会場風景

 

ガスクロマトグラフィー研究懇談会
キャピラリーガスクロマトグラフィー講習会開催報告

 麻布大学のご厚意で実習会場を提供頂き、首都大学から会場を移してから4回目、通算で第21回CGC講習会も無事終了いたしました。今回は、実習17名、講義のみ5名で総数22名、これに学生の聴講を加えて26名でした。講習会初日は実習のテキストとして使われている「役に立つガスクロ分析」の内容に沿った講義を行い、2,3日目は4組にわかれて実習を行いました。実習は、テキストで学んだ事を実際の分析を通じて理解を深める内容でしたが、応用では欧州連合のROHS指令,REACH規制に関わる材料分析の話題を取り上げフタル酸エステル類、臭素系難燃剤のGC/MS分析の実習を行いました。また、GCの前処理法として適用範囲を拡大する誘導体化では有機スズを誘導体化して分析する実習を行いました。誘導体化した後、ガスクロマトグラフの選択性検出器としてスズのフィルターを付けた炎光光度検出器(FPD)を用いました。今回の講習会では前回の反省を基に保母先生にお話し頂いた基礎理論の講義を少し延長して理解を深めるよう工夫しました。各講師が講義内容をいろいろと工夫して短時間の講義で理解を深めるよう考えましたが、1日の座学でGCの全てを説明することは容易ではありませんでした。実習に関わる誘導体化の実習部分で実際の前処理に時間がかかるので処理済試料を用いましたが誘導体化反応と選択性検出器を用いるGC分析の有用性を確認できる良い機会となりました。しかし、応用面が限定されることで参加者も材料分析関係の方に限定されるなど、実習テーマの選び方の難しさを実感いたしました。運営委員の間ではこれ等の点を反省し、来年はより良い実習にしていきたいとの声があがっております。

 講習会2日目にはガスクロマトグラフィー研究懇談会恒例の講師と参加者、運営委員を交えての意見交換があり、今後の活動の助けとなるコミニケーションの機会が設けられ、活発な意見交換が行われました。実習参加者からは、参加してよかった、応用ばかりやっていたがガスクロマトグラフ分析の基礎が理解できた等の感想が寄せられました。反省点も含めて参加者の方の意見を取り入れてより良い講習会にしていきたいと思います。

 試験中にもかかわらず麻布大学の高木先生、杉田先生、久松先生、兼島先生には大変お世話になり、また、講習会のアレンジをしていただいた代島副委員長、杉田先生、講義と実習を担当して頂いた運営委員並びに講師派遣と機材提供頂いた企業の方々の協力に感謝いたします。

ガスクロマトグラフィー研究懇談会委員長
(国立研究開発法人 産業技術総合研究所)前田恒昭

 

 

 

 


 

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