運営委員長挨拶

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「安全・安心」とよく使いますが、安全イコール安心ではありませんし、安全は、客観的評価に対して、安心は主観的評価になります。食品の「安心」のためには、科学的評価によって決定される「安全」と行政、食品事業者等の誠実な姿勢と真剣な取り組みや消費者への十分な情報提供による「信頼」が必要です。食品表示は、消費者にとって、主として「信頼」に係わる重要な要素です。従来、表示の信憑性を確認するには、立ち入りで書類を調査する社会的検証しか手段がありませんでしたが、表示についてのJAS法の改正や種苗法改正による育成権者の保護の強化等への対応のために、表示内容等の科学的検証としての判別技術が必要となり品種、産地、生産履歴、遺伝子組換え、放射線照射等についての研究が行われています。現在では、一つの分析手法だけでは起源の判別や推定に対応することは難しく、複数の分析手法の組み合わせが必要とされており、分野横断的な研究会を整備することが必要と考えられていました。

表示・起源分析技術研究懇談会は2008年度に「起源と表示」をテーマに2回の勉強会を開催し、参加者の関心の高さを受けて、「分野・分析手法を横断し、起源と表示に関する分析科学的研究を行い、学問の振興及び社会における利用を図ること」を目的として、2008年12月に(社)日本分析化学会の13番目の研究懇談会として発足し、2009年度からは、年2回の講演会を実施しています。

現在は、食品の各種判別についての関心が特に高いと思いますが、食品のみならず、法科学分野の異同識別、薬物・ドーピングなどに関する代謝物判断、文化財の産地推定など「起源」をキーワードとした研究のディスカッショングループを目指し、技術・情報の共有により社会の貢献できる新たな情報提供の枠組み作りを行います。新しく生まれた本研究懇談会には、分野を横断しての積極的な活動の場があります。皆様のご入会をお待ちしております。

また、当研究懇談会の事業の一環として、食品表示の信頼性を確保するための技術につて網羅的に理解して頂くために、『食品表示を裏づける分析技術−科学の目で偽装を見破る−』を2010年11月に東京電機大学出版局から出版致しました。表示の根拠となる法律等を概観した上で、食品表示の検証に、どの様な分析技術が使用され、あるいは研究されているのかをご紹介していますので、ご利用頂ければと思います。

表示・起源分析技術研究懇談会  委員長 安井明美
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 食品総合研究所

(2011年2月6日)