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2012年度

ガスクロマトグラフィー研究懇談会第322回特別講演会開催報告


標記講演会が、(社)日本分析化学会 ガスクロマトグラフィー研究懇談会の主催により、昨年(2012年)の12月7日に国立オリンピック記念青少年総合センター(東京・渋谷)において開催されました。主題は「ノンターゲット分析~最新の話題から未知化合物の探索まで~」で、年の瀬も近づいた多忙な時期でしたが、約120名の方が参加されました。

前田委員長の挨拶に続いて、冒頭主題講演に先立ち「ノンターゲット分析に関する現状」(鰐川彰氏、アサヒグループホールディングス(株))のタイトルで、ノンターゲット分析(オミクス的手法)が、試料の全体的特徴あるいは試料間の類似性/差異を把握するうえで不可欠であることと、そのノンターゲット分析に必要な技術要件が提示されました。

最初の主題講演は、「ノンターゲット分析を支えるデコンボリューション技術」(佐久井徳広氏、アジレントテクノロジー(株))。質量分析計(MS)の全イオンクロマトグラム(TIC)からピークおよびスペクトルを単離するソフトウエア技術であるデコンボリューションについて、そのメカニズム(全マスクロマトグラム抽出と保持時間の微妙な差異によるピーク弁別)やこのような技術がノンターゲット分析で必要とされる理由の解説がありました。さらに、多変量解析との組み合わせによる一層の有効活用の可能性に言及されました。

主題講演の2題目は「ノンターゲット分析によるビールにおけるホップ由来の香りの研究」(乾隆子氏、サントリー酒類(株))。異なる品種のホップを用いたビールにおけるホップ香の特徴に寄与する化合物を探索するプロセスを、1)試料調整、2)定量的官能評価、3)GC×GC-TOF/MSを用いた網羅的成分解析、4)官能評価結果、5)網羅的成分分析と官能スコアの多変量解析の5項目に分けて詳述。香りの質が明確に異なると予想される5種のホップを選抜し、ホップ香の特徴を6つの評価軸(Floral、Herbal、Citrussy、Spicy、Ester、Sylvan(Woody))に設定した官能スコアおよびGC×GC-TOF/MSにより検出された2500成分のうち定性確度の高い840成分について多変量解析を行い、それぞれの特徴香に関与する化合物を推定した事例が紹介されました。

続く主題講演は「環境分野におけるGC×GC-HRTOFMSおよびMS/MSによる網羅分析」(橋本俊次氏、独立行政法人 国立環境研究所)。演者らが取り組んでいる超高分離・迅速・多成分同時・高感度分析として以下の3例、1)GC×GC-HRTOFMS(高分解能飛行時間型質量分析計)によるPCDD/zFs、POPsの定量:前処理の精製操作を省略してもダイオキシン類について二重収束型MS(前処理有り)と同等の定量値が得られる。前処理を省略できるため、PCBs、PAHsなどより広範な化合物への適用が可能、2)GC×GC-MS/MSを用いた中性ロススキャン(コンスタントニュートラルロス走査)による有機ハロゲンの選択的検出:当該手法によりフライアッシュ、低質、土壌から多数の含ハロゲン化合物を検出、3)ソフトウエアによる選択的マススペクトル抽出:塩素もしくは臭素を含む化合物のマススペクトルのみを抽出するソフトウエアを作成し、濃縮大気のGC×GC-HRTOFMSデータより多数の塩素系化合物を検出、が紹介されました。

次に、メーカー側より主題に関連する技術講演5題がありました。
1題目は、「ノンターゲット分析によるウイスキー中の硫黄酸化物のキャラクタリゼーション(FEDHS-1D/2D RTL GC-SCD/NCD/MSと主成分分析)」(ゲステル(株)、落合伸夫氏)(RTL:リテンションタイムロッキング、SCD: 硫黄選択性化学発光検出器、NCD:窒素選択性化学発光検出器)。少量(100μLレベル)の水系試料を密封容器中で全量気化させてGCに導入する手法であるFEDHS(Full Evaporation Dynamic Head Space)と多数のフラクションをハートカットする2次元GCおよびMSを含む複数検出器を用いた、ウイスキー中に含まれるppbレベルの硫黄化合物の網羅的検出手法、および多変量解析と組み合わせたウイスキー熟成前後の香りに寄与する硫黄化合物のキャラクタリゼーション例が紹介されました。

2題目は、「フラッシュGCノーズを用いた迅速ノンターゲット分析」(矢島敏行氏、アルファ・モス・ジャパン(株)。高速GCをベースとして、多変量解析ならびに複数の液相の保持指標データベースを組み合わせた技術。クロマトグラムのパターン解析から総合的な「におい」を分類し、試料間の違いに寄与するピークの選別とその化合物名および官能情報の迅速容易な検索について、実例を交えて解説されました。

3題目は、「差異解析ソフトSIEVEを用いたGC-MSデータの解析事例紹介」(山本五秋氏・サーモフィッシャーサイエンティフィック(株))。同ソフトウエアの機能であるMSのTICデータから保持時間とm/zに基づくピーク抽出方法と、その抽出されたピークの強度に対する統計処理によるクロマト間の差異解析が解説されました。さらに、そのソフトウエアによる解析例として、醤油における製品間の差異と経時変化、ならびに加熱温度による包装フィルムアウトガスの違いについて紹介されました。

4題目は、「トラップHS-GC/MSとスニッフィングシステムを組み合わせたチーズのにおい分析」(白田志保氏、日本電子(株)。一般的なヘッドスペース法(HS)に比べてより多くのヘッドスペースガスをGCに導入することができるトラップHSとGC/MSを用いて採取したデータの多変量解析結果と、スニッフィング結果、アミノ酸分析、および味覚・においセンサーのデータを関連付けながら、14種類のチーズ間の差異解析ならびに各チーズを特徴づける化合物の同定結果が紹介されました。

技術講演最後は、「網羅的な分析に必要な前処理とは、MonoTrapを用いての検証(最終製品仕様に至るまでの経緯も交えて)」(佐藤まなみ氏、ジーエルサイエンス(株))。香気成分の網羅的分析を目的として、できるだけ多岐に渡る物性を有する化合物を捕集することを意図して開発されたシリカモノリスをベースとする保持材について、その開発コンセプト、開発プロセス、化学的構造と形状などが解説されました。さらに、チーズ香気のHS分析と同トラップの熱脱着分析の比較などによる評価について紹介されました。

休憩後は再び主題講演に戻って、「香木「伽羅」の香りの研究」(石原正和氏、塩野香料(株))。良質な沈香である伽羅の入手がほぼ不可能になることを約20年前に予見した演者らにより、その香りの人工的な再現を目的として発足されたプロジェクトの、商品化に至るまでの研究成果として、1)伽羅特有の「上品な甘い香り」を構成する20種類のセスキテルペン類の単離・同定ならびに伽羅、沈香のベースとなる燻煙香に寄与する成分の解明、および2)伽羅と沈香について抽出物および加熱香気を詳細に比較検討し、両者に特徴となるそれぞれの成分の特定、の2つの検討に関して詳述されました。

最後の主題講演は、「-エコロジカルボラタイル- 生態学的機能をもった揮発性化合物群」(松井健二氏、山口大学大学院医学系研究科(農学系))。植物が放散する「みどりの香り」と呼ばれる炭素数6個の揮発性化合物群の生態学的役割に関する研究・知見について、1)直接防衛効果:植物体が傷つくとみどりの香りが急速に生成されるようになる点に着目して、同成分が傷口からの菌の侵入を抑制するような消毒効果を有することを解明、2)間接防衛効果:イモムシによる食害を受けた植物が天敵である寄生蜂を誘引する事象に対するみどりの香りの寄与の検証、3)立ち聞き効果:昆虫の食害を受けている植物の周囲の植物でも抵抗性が誘導される(昆虫抵抗性物質が蓄積される)「立ち聞き」現象に関して、LC/MS/MSを用いたメタボローム解析等により、みどりの香りの1成分であるヘキセノールの関与の解明、の3項目に分けて紹介されました。

以上の講演の後に、保母最高顧問の挨拶をもって本会は無事終了しました。その後場所を移した意見交換会にも多くの方が参加され、当日の主題あるいは最近話題となっているヘリウム供給不足などについて活発な議論が交わされ、こちらも盛会のうちに閉会となりました。

山上 仰(西川計測)


日本分析化学会 ガスクロマトグラフィー研究懇談会
第18回キャピラリーガスクロマトグラフィー講習会開催報告

 キャピラリーガスクトマトグラフィー講習会(CGC講習会)も今年で18回目を迎え、相模原市淵野辺にある麻布大学の生命・環境学部に会場を提供頂き、8月1日から3日間に渡り開催された。3日間とも天候に恵まれ、30℃を越す真夏日の中、北はいわきから南は都城まで日本全国より26名の参加者が集った。初日は講義、2日目と3日目が実習であった。講義では保母先生よりクロマトグラムの基礎、和田先生(島津製作所)よりカラムと注入口について、安藤先生(GLサイエンス)からは固相抽出などの前処理法と試料の導入方法について、竹内先生(クロマト技研)からは様々な検出器の原理と利用法、代島先生(アジレント)にはGC/MSの基礎から応用まで、秋山先生(日本自動車研究所)からは質量スペクトル解析の基礎、と初心者から中堅者まで幅広い内容であった。実習では4~5人ずつ5つのグループに分かれ、試料注入法、分離カラムの選択と分離の最適化、誘導体化によるGC分析法、GC/MSによる農薬分析、カビ臭などの水道水分析の実際、可搬型GCとパージトラップによる飲料水中のVOC測定の6科目を持ち回りで、実際の装置に触れながら学んだ。一昨年より、参加者にはGC懇が編集した「役に立つガスクロ分析」が教科書として配布され、活用されている。

今年度の受講生は全体的に若く、初心者も多く参加していた。先生の熱心な講義を息のかかる距離で熱心に聴き、質問をしている姿に、サポート役の先生も参戦(?)し、休憩時間も惜しんでガスクロの話に花を咲かせていた。しかし、残念なことに、本講習会の受講者数は定員の2/3程度で推移している。一方、受講者数が減ったおかげで、講師とのコミュニケーションの時間も多くなり、その理解度も深くなったようである。受講者の個人的なスキルアップだけではなく、会社や所属団体にその知識を持ち返ってもらい、所属団体全体のベースアップにつなげてもらいたい。また、参加者のネットワークを広げて分析化学やGC懇への参加も期待したい。

今回の実習では、GC懇の運営委員の会社より装置の提供と講師の派遣を行って頂いた。また、麻布大学からは会場を提供頂き多大な協力を頂いた。開催にご協力頂いた方々に紙面を借りて深謝いたします。

三菱アナリテック 杉田和俊

 


2012日中韓分析研究交流会シンポジウム開催報告

今年のシンポジウムは中国の上海で10月15日から19日まで開催されました。プレシンポジウムになった2002年の日中環境・分析研究交流会から数えて10年目で、通算9回目です。今回のシンポジウムは、2002年当初からの中国側事務局の清華大の林金明教授が6th Shanghai International Symposium on Analytical Chemistryの主催者(中国化学会の分析化学部門が隔年開催する国際会議で、林先生は分析化学部門の副会長)であり、両方一緒にして共催の形で開催する事になりました。日本と韓国からの参加者は両方の会場を往復して発表と聴講を行いました。6th Shanghai International Symposium on Analytical Chemistryは第6回Analytica Chinaという日本の分析展に相当する展示会(2年に1回開催、2002年から開催)に併設されておりました。Analyticaはメッセ・ミュンヘンが主催する展示会で、分析化学関係ではヨーロッパ随一の展示会で、最近は東南アジアに進出して展示会を開催しています。Analytica Chinaのホームページは下記にあります。

http://www.analyticachina.com/en/Home

16日の午前中に共同で開会式を行い、午後、林金明教授(中国)、中村洋先生(日本)、Dong-sun Lee教授(韓国)の開会挨拶の後日中韓シンポジウムのセッションを開始しました。

全体のシンポジウムの主要テーマは下記の通りで、幅広い分野から研究発表が行われました。

1)Symposium Theme : Analytical Chemistry and Our Life、Topics of interest for abstract submission include, but are not limited to:
(1) Analytical Chemistry in Biology
(2) Analytical Chemistry in drug discovery
(3) Analytical Chemistry in Environment
(4) Analytical Chemistry in Food Science
(5) Materials Science and its application
(6) Nanotechnology and Analytical Chemistry
(7) Sampling and Sample Preparation
(8) New Technology, New Method and New Equipments

日本側団長は中村洋先生、事務局は産総研の前田恒昭、韓国側団長はソウル女子大学のDong-Sun Lee教授、事務局は韓国食品研究所のJae-ho Ha博士でした。参加者は韓国13名、日本28名、中国約80名と盛況でした。今回は口頭発表28件、ポスター発表81件で日本に留学している中国の学生やポスドクで活躍している研究者の発表もあり、活発に討論されていました。聴講に来ている中国の学生たちは学生同士で情報交換していました。今後の交流が活発に行われることが期待されます。参加者はお互いに懇親を深め、聴講や発表の合間をぬって展示会を見学し、情報交換や情報収集を行っていました。

 合同で開催された懇親会では優秀なポスター発表に対して表彰が行われ、日本からは首都大学東京のMs.Ying Wengさんと徳島大学の竹内政樹先生のポスターが選ばれました。また、日中韓シンポジウムの懇親会では、保母先生が2002年に組織して始めた日中韓シンポジウムの10周年を記念して長年日本側事務局を務めた産総研の前田恒昭氏が中国化学会から表彰されました。韓国のDong-Sun Lee教授、日本分析化学会の各研究懇談会などの支援によりここまで継続してこれた事に感謝し、賞を皆で分け合い、次の世代が活躍できるよう今後の継続と発展に協力が呼びかけられました。長崎国際大学の佐藤博先生から来年の開催は九州でという発表があり、再開を約して閉会しました。

研究会の後は杭州1泊2日の視察があり、中国のカップルに人気の景勝の地である西湖、インドの僧が開いた雲隠寺と千年の歴史をもつ古い街並みを残す水郷の街の烏鎮を訪ね、おいしい食事を楽しみ中国を満喫しておりました。一時、政治的な緊張が懸念されましたが、滞在中はこれといった変化はなく、急速に国際化を進めている豊かな中国を実感しました。

(独)産業技術総合研究所 前田恒昭

 


 

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