生活文化・   乾燥食品中の残留農薬を高精度で分析する前処理法の開発
 エネルギー

 中国からの輸入餃子で問題になったように,食品中の農薬分析は極めて重要である。しかしながら,乾燥した果実や野菜などの分析の場合,妨害成分が多く迅速な測定は困難である。そこで,本研究では,これらの妨害成分を除去する方法として,二酸化チタン光触媒を用いることを試みた。乾燥バジル中の殺虫剤の分析において,二酸化チタンと試料抽出液を石英瓶に入れブラックライトを照射したところ,妨害成分を選択的に分解できることがわかった。本法は多くの食品試料への応用が可能と考えられ,残留農薬であるイプロジオン分析のための簡便迅速な前処理法として有用である。

【A2012】      

光触媒を用いた乾燥食品中のイプロジオンの定量法の開発

(ハウス食品分析テクノサービス1・金沢大院自然科学2) ○前田理1,2・及川千恵1・塩見展男1
鳥羽陽2・早川和一2[連絡者:前田理、電話:043-237-5676] 

 中国から輸入された餃子に農薬が混入していた事件は記憶に新しいが、食品中の残留農薬分析では、分析値が重要であるため高い精度が求められる。一般に、こうした試料は固相抽出カラムなどを用いて妨害物質を除去した後、液体クロマトグラフやガスクロマトグラフなどで農薬を測定する。しかし、乾燥した果実、野菜、加工食品などによっては、妨害物質が多量に含まれていることがある。これらは、固相抽出カラムを用いても精製が不十分であるため、クロマトグラム上で目的とする農薬のピークの近傍に妨害ピークとして現れて、農薬の定量分析を困難にする場合がある。そこで、精製工程を増やすと、今度は操作に時間がかかるようになり、回収率が低下する懸念もある。従って、精製工程はできるだけ少なく分析時間も短いが、精製効率は高い前処理法が必要である。
 本研究は、残留農薬分析における新しい精製方法として、乾燥バジル中の殺菌剤イプロジオンを一例に、光触媒の一種である二酸化チタンを用いる方法の有用性を検討した。
 乾燥バジルを粉砕した後アセトンで振盪抽出した液を、二酸化チタンと一緒に、石英バイアルビンに入れた。図1に示す2本のブラックライトと鏡を装着した照射装置を作製した。上述のバイアルビンをこの装置の2本のブラックライトの間に固定した後、上下に鏡を設置し、ブラックライトを照射しながら、振盪させた。ブラックライトの発熱でサンプルの温度が上昇するのを防ぐため、バイアルビンに送風した。照射後の抽出液の一部を、HPLC-紫外可視吸光度検出装置に注入した。イプロジオンと妨害成分のピークの大きさを指標に、二酸化チタンの添加量、ブラックライトの強度、照射時間等の最適処理条件を見出した。次に、この最適条件下で実試料への適用を試みた結果、対照(二酸化チタン無添加、照射無し)では、イプロジオンの溶出付近には妨害ピークが多く、イプロジオンを確認できなかったが、二酸化チタンを添加して照射を行ったところ、妨害ピークが消失し、イプロジオンは殆ど分解されることなく(添加回収率102.6 %)、定量可能なピークになった。
 この結果は、二酸化チタン添加/紫外線照射に対するイプロジオンと妨害成分の分解エネルギーの差に基づく効果と推定され、他の多くの食品試料への応用が期待できる。