◆新素材・   金属イオン種によって制御される分子バルブを開発
先端技術◆

 アルギン酸はコンブなどの褐藻類に多く含まれる天然多糖類の一つで,人体に無害である。この水溶液にカルシウムなどの陽イオンを加えると迅速にゲル化する。アルギン酸をカルシウムイオンにより部分的に固めたゲルを合成し,メンブランフィルター上に塗布した。これを水に入れるとゲルが膨潤し,フィルターの孔をふさぐため溶液は透過しない。ここに陽イオンが接触するとゲルが縮み,フィルターの孔が開くため溶液が透過する。アルギン酸ゲルのこのような性質を利用することで,環境に優しく生体との親和性の高い分子のバルブを開発できた。

【E1019】      

アルギン酸ゲルを利用した分子バルブの開発

(名工大院工) ○門田和久・湯地昭夫・高田主岳
[連絡者: 高田主岳, 電話: 052-735-5238]

 バルブとは流路の開閉や、流速の制御を行う機器である。これまでのバルブは金属などの硬い素材で構成されたものがほとんどであった。これに対し分子バルブは高分子ゲルなどの軟らかい素材から成っており、環境に優しく、生体との親和性も高い。また、小型化が簡易で、理論上分子サイズまで小型化することが可能である。
 アルギン酸はコンブ等に代表される褐藻類に多く含まれる天然多糖類の一種であり、人体に無害である。アルギン酸水溶液にCa2+イオンなどのカチオンを添加すると、迅速にゲル化する。本研究ではこのような特徴を持つアルギン酸ゲルを利用し、カチオンの流入を検知し、自動的に開くインテリジェント分子バルブの開発を目的とした。このバルブは、センシング部とアクチュエーション部が一体となっているため、構造が単純である。また、外部からのエネルギーを必要とせず、自身が外界の環境変化を検知し、自動的に動作するなどの特徴を持っている。

 図の様に細かい穴の空いているメンブランフィルタ上に、アルギン酸をCa2+イオンにより部分的に架橋させたゲルを合成した。ゲルは水と接触すると膨潤し、メンブランフィルタの細孔を塞ぐことにより、バルブが閉じた状態となる。ここにCu2+イオンなどのカチオンが接触すると、ゲル中の余剰のカルボキシル基を架橋することによりゲルが収縮する。これにより、メンブランフィルタの細孔が開き、バルブが開放される。このバルブをNaNO3、Mg(NO3)2、Al(NO3)3水溶液と接触させた場合、濃度が高くなると透過した。また、Al(NO3)3、Mg(NO3)2、NaNO3の順に透過開始濃度が高くなり、金属イオンに対して選択性があることが明らかとなった。溶液のpHに対しては3以下で透過した。以上のことから、接触する水溶液のカチオンの濃度が高くなると開放する分子バルブとして利用可能であることが明らかとなった。