◆医療・生命◆   ビデオ顕微鏡と質量分析計で生きた細胞の成分をそのまま測定

 生体内の細胞ひとつひとつは外部の刺激に対してそれぞれ異なった応答を示している。従って1つの細胞内の分子の動きを直接計測できれば,生命現象とその分子機構の解明につながる。本研究では,注目する細胞ひとつをビデオ顕微鏡でとらえ,細胞内の微小器官に含まれる成分を直接質量分析計で測定することに成功した。アレルギーの原因とされるマスト細胞内の顆粒など微小器官にキャピラリーチップを挿入し,その中に含まれる成分を直接質量分析計で測定し,ヒスタミンの存在を確認した。抗原刺激による細胞の変化や万能細胞の分化因子などの解析への応用が期待される。

【F2022】  

ビデオマススコープ法の開発:1細胞ダイレクトMS?細胞内小器官・部位特異性分子探索 

(広島大院医歯薬)○水野 初・津山尚宏・升島 努
[連絡者:升島 努,電話:082-257-5300]

・なぜビデオマススコープ法?、なぜ1細胞分析?
 細胞が何か変化を起こした瞬間、その細胞内の分子動態が直接的に分析できれば、生命現象とその分子機構の解明は、今より格段のスピードで解明されるに違いないと考えた。当研究室で長年ビデオ顕微法により同じ細胞群でも、刺激などに対する応答は細胞でまちまちという結果を見て、1細胞での分析は必須であり、「ビデオ顕微鏡とマス(MS)法の結合のビデオマススコープ法(造語)」の開発を決め、一連の開発において、現在細胞内小器官(微小顆粒)内の分子も解析できる事となった。

・1細胞ダイレクトMS法の開発
 本研究では、生きたマスト細胞一つの内部顆粒をナノスプレーチップで捕捉し、直接MS測定できる手法を開発した。この方法を用いて、アレルギー反応の原因とされるマスト細胞(RBL-2H3)の顆粒部位に存在する分子の検出と同定を行った。状態/部位特異的な分子は、t-検定による分子探索を行い、その結果、顆粒内にはアレルギー症状を引き起こす原因物質であるヒスタミンが特異的に含まれており、セロトニンは細胞質にも両方に存在する事が分かり、蓄積分子機構を反映していた。現在抗原刺激の際の細胞内外の分子変化や、別の細胞の分化因子の追跡も行っている。iPS万能細胞も分化因子の解析力での競争は必至であり、本手法は分化因子探索にも利用できると考える。
 今後は、更に高感度化と高速化を図り、リアルタイムに近い1細胞内、直接分子機構解明を目指す。