◆医療・生命◆   マイクロデバイスで受精卵の品質を評価

移植胚(受精卵)の品質評価はこれまで形態観察に基づいていたが,近年,非侵襲の電気化学計測による胚の呼吸活性の測定を活用することが注目されている。しかしながら,使用する走査型電気化学顕微鏡の測定では,微小領域での位置決めなどの熟練技術を要する難点があった。本研究では,微細加工技術を駆使して,微細な流路・電極から構成される電気化学マイクロデバイスを開発したところ,胚の呼吸による酸素消費に起因する電流変化をとらえることに成功した。より簡便な胚の品質評価システムを望む,臨床医療および畜産分野における実用化が期待される。

【F1019】  

電気化学マイクロデバイスを用いたマウス初期胚の呼吸評価

(1東北大学院環境・2東北大学先進医工)○伊達安基1・高野真一朗1・伊藤-佐々木隆広2・横尾正樹2・珠玖 仁1・阿部宏之2・末永智一1, 2
[連絡者:末永智一,電話:022-795-7281]

 不妊治療や畜産の現場において,移植する胚(受精卵)の品質は移植成績を左右する重要な因子である.これまで,胚の品質評価は形態学的な評価に基づき行なわれており,これに代わる定量的で客観性の高い評価方法が望まれていた.近年,胚の呼吸活性(酸素消費量)と品質の相関が報告され,定量評価の方法として走査型プローブ顕微鏡の一種である走査型電気化学顕微鏡(SECM)を用いた電気化学計測による呼吸活性評価が注目されている.電気化学計測は定量的であるだけでなく,細胞に対して非侵襲的であることから,生体サンプルの計測に適した方法といえる.一方で,SECM測定では厳密なサンプルのアライメントと微小電極プローブの走査といった操作を必要とする.そのため,実際に評価を行なう現場においては,より簡便な品質評価システムの構築が望ましい.
 本研究では,半導体加工に用いられる微細加工技術を用い,簡便にSECM測定と比較して同程度の感度で胚の呼吸評価を可能とする電気化学マイクロデバイスを開発した.本デバイスは,サンプル胚の測定部位へのアライメントを容易にしたマイクロ流路と,プローブ走査なしで高感度な電気化学測定を可能とするマイクロ電極を集積化した電極基板で構成される.これまで,本デバイスを用いて胚の呼吸(酸素消費)による電流値の変化を捉えることに成功している(Fig.).解析から,単一胚の呼吸活性は(7.12×10-15 mol・s-1) と算出された.この値は,これまで報告された単一胚の呼吸活性と一致しており,本マイクロデバイスを用いた胚の品質評価の可能性が示唆された.今後,更なる検討により臨床医療および畜産分野における実用化が期待される.