生活文化・   タバコ植物におけるカドミウムの蓄積機構をみる
 エネルギー

 タバコ植物は喫煙用に広く栽培されているが,カドミウムを添加して栽培すると,その植物体内にカドミウムが比較的高濃度に蓄積することが知られている。本研究では,1 μm 角の放射光高エネルギーX線マイクロビームを利用した蛍光X線分析により,タバコ植物におけるカドミウムの蓄積を細胞レベルで可視化することに成功した。カドミウムは,タバコ葉表面の毛状突起組織の先端において高濃度に蓄積されていた。またその部位においてカルシウムも蓄積されており,毛状突起組織の先端から微小粒子として排出する機構を持つことが示された。

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放射光蛍光X線分析によるタバコ植物におけるカドミウムの蓄積機構の解明

(東理大理1、フジタ2、JASRI SPring-83、理研4)○高田沙織1、福田直樹1、保倉明子1
中井 泉1、北島信行1,2、寺田靖子3、阿部知子4 
[連絡先:中井 泉,電話:03-3260-3662]

 ある種の植物は、水や養分を吸収する際に汚染土壌中の重金属も体内に取り込み、高濃度に蓄積することが知られている。近年、重金属汚染された土壌を浄化するために、これらの植物を用いるファイトレメディエーションが、環境にやさしい浄化技術として注目を集めている。しかし植物が重金属をどこにどのように蓄積するのか、なぜ蓄積できるのか等は良くわかっていない。これは植物のような複雑な組織をもつ生物試料を非破壊で分析する手法が限られていたためである。我々は、大気中で生きたまま植物の元素分布や化学形態を調べられる放射光蛍光X線分析に着目し、世界で初めてヒ素蓄積植物の研究に応用し、その分布と化学形態を解明してきた。本研究ではさらに対象を広げ、喫煙用に広く栽培されているタバコ植物が有害なカドミウム(Cd)に対して耐性を持ち、比較的高濃度に蓄積することに着目して研究を進めた。Cdの分析には高エネルギーX線が必要であり、世界最大の放射光施設SPring-8は細胞レベルの空間分解能でCdの分析ができる唯一の施設であることから、我々はSPring-8で分析を行った。
 カドミウムとカルシウムを様々な濃度で添加した培地を使ってタバコ植物を栽培した。タバコの葉の表面には、毛状突起組織(トライコーム)が無数に存在する。ここからのCd排出機構について検討するため、トライコーム周辺の元素分布を蛍光X線二次元イメージングで調べた。

 その結果、トライコームの先端部には微小粒子が存在し、その部分にCdとCaの蓄積が認められた。タバコのトライコームの先端にCdが蓄積する様子を初めて可視化することができ、トライコームでは積極的にCdを先端に輸送することが明らかになった。この排出がタバコ植物のCd耐性と密接な関わりをもつことが示唆された。