◆環境・防災◆  室内における有機フッ素系化合物の実態を探る
 有機フッ素系化合物(PFCs)は環境中で分解されにくく、水や有機溶媒にも溶解しにくい特殊な性質をもつ。日常では消化剤やテフロン加工原料、防水スプレー、防汚剤などに広く用いられている。今回、PFCsがカーペットに撥水(はっすい)剤として用いられていることから、室内にあるハウスダストやカーペット中のPFCsについて測定した結果、それぞれ高濃度で含まれていることが分かり、暴露源の一因になることが示唆された。今後のPFCsの生体影響を明らかにするためには、このような暴露源や汚染源の解明研究は、役に立つものと期待される。

【P1037】   室内環境に残留する有機フッ素系化合物のヒト暴露に関する研究

(1星薬大院,2北大・医,3東海大・医) ○勝又常信1,岩崎雄介1,伊藤里恵1,斉藤貢一1
岸玲子
2,和泉俊一郎3,牧野恒久3,中澤裕之1
[連絡者:中澤裕之,電話:03-5498-5763

 私たちは多数の化学物質を作り出し,その恩恵に預かって,快適かつ便利な生活を享受しています.しかし,市場に出回っている化学物質の中には,毒性が十分に解明されていない物質も存在します.
 有機フッ素系化合物(perfluorochemicals; PFCs)もそのような化学物質の一つです.PFCsは,1950年代に開発され,右図のように直鎖の炭素鎖にフッ素が結合し,末端にスルホン酸基やカルボン酸基が結合した構造を有することから,環境中で分解されにくいという難分解性の性状と,水だけではなく,油や有機溶媒も弾くという特殊な性質があります.半世紀間,その利便性から,日用品にも多く使われており,その用途は界面活性剤,消化剤,焦げ付かないフライパンなどのテフロン加工原料,紙のコーティング,防水スプレー,車のワックス,防汚剤等として幅広く使用されています.

 この便利な性質を持つPFCsが注目されるようになったのは1999年,製造工場で働く従業員の血清からパーフルオロオクタンスルホネート(perfluorooctanesulfonate; PFOS)が高濃度で検出されたことに始まります.以降,米国をはじめとする世界各地で,ヒトや野生動物の血液や臓器,環境水,底質及び大気等について暴露や汚染の把握が行われてきました.同時に,生物への生体影響や毒性も研究されており,甲状腺ホルモンへの影響,ペルオキシソーム増殖作用等が報告されています.
 PFCsの環境汚染に関する報告としては,汚泥,環境水及び大気の測定が報告されていますが,非常に低濃度であり,暴露源として評価するのは困難な状況にあります.そこで私達は,PFCsのヒト暴露源に着目しました.日常生活環境中に常在し,多くの化学物質を含んでいるハウスダストとPFCsを撥水剤として用いている可能性のあるカーペットについて調べたところ,ハウスダスト及びカーペットには他の環境試料に比べ,高濃度のPFCsが含まれていることを見いだしました.このことより,ハウスダストやカーペットがPFCsのヒト暴露源の一要因になり得ることが示唆されました.この研究はPFCsの暴露経路を明らかにしようとする研究の第一歩となるものです. PFCsの生体影響を明らかにするには暴露源や汚染源を解明することが重要で,今後もさらなる研究が期待されます.