◆新素材・   金ナノ粒子を使った画期的な創薬・診断ツールを開発 
先端技術◆

 多くの細胞内分子の機能活性計測が創薬・診断の分野で利用可能であるが、その中でもっとも有望なものに、タンパク質リン酸化酵素であるプロテインキナーゼの活性計測がある。本研究では、標的キナーゼに対する基質ペプチドの総電荷がリン酸化によって負に帯電して変化する特性が、金ナノ粒子の凝集(青色)と分散(赤色)状態に影響を与える現象を使って、もっとも簡便で迅速なキナーゼ活性の計測法開発に成功した。この新技術によって、阻害剤などの薬物の探索や、がん細胞の計測が可能となることが、今回の研究で初めて明らかにされた。

【C2007*】    金ナノ粒子を用いるプロテインキナーゼ活性のラベルフリーアッセイ

(九大院工1・九大未来化学創造セ2・JST CREST3・九大院システム生命科学4
○片山佳樹1,2,3,4・大石 潤3・朝見陽介3・森 健1,2,3・新留琢郎1,2,3,4
[連絡者:片山佳樹、電話:092-802-2850]

  ゲノム研究の進展に伴い、多くの細胞内分子が創薬・診断の分野で利用可能となっている。ところが、細胞内のタンパクをはじめとする多くの分子は、互いに複雑なネットワークを通して生命活動を作り出すので、このネットワークを解明しなければ、ゲノム創薬や、次世代の診断はありえない。この複雑なナットワークの中で、細胞機能を制御する最も重要な情報処理酵素群は、プロテインキナーゼと呼ばれる一群のたんぱく質リン酸化酵素である。多くの疾患では、特定のプロテインキナーゼの活性が異常となっていることが多く、この活性を簡便迅速にアッセイできれば、有効な創薬スクリーニングおよび診断ツールとなることが期待できる。ところが、プロテインキナーゼ活性は、通常、放射性同位体を用いる手や、煩雑で熟練を要する手法によってのみ計測され、創薬スクリーニングや診断のような、迅速性と経済性を満足する手法はなかった。
 今回、我々は、金ナノ粒子が会合状態により青から赤に色調を変化させることを利用して、考えられる限り最も簡便で迅速、かつ正確なキナーゼ活性の計測法を開発した。この方法では、標的キナーゼに対する基質ペプチドの総荷電を正になるように設計しておき、これを標的キナーゼ、あるいは、細胞破砕液で処理してリン酸化反応の後、この液の一部をマイナスに帯電した金ナノ粒子溶液の中に添加して色調を見るだけで、正確にキナーゼの活性を評価できる。リン酸化されたペプチドでは、リン酸基のマイナス荷電の為、ペプチドの総正荷電が減少して金粒子の凝集能が減少し、リン酸化前では凝集した青色であるのに対し、リン酸化が進行していると、凝集せず赤色となる。
 今回、この方法を用いて、種々のキナーゼ活性計測が可能であること、これを用いて実際に阻害剤などの薬物探索が可能であること、がん細胞で特異的に活性化しているプロテインキナーゼCαを計測するシステムを用いてがん細胞を計測し、がんの術中迅速診断に適用可能である可能性などを示すことに成功した。本手法は、画期的な創薬・診断ツールとなると期待できる。