◆新素材・   新規蛍光標識法により細胞内タンパク質の分布を探る 
先端技術◆

 タンパク質が細胞内でどのような働きをしているかを調べるためには、細胞内での分布を正確に知る必要がある。このため、タンパク質に目印をつけて光らせる方法が検討されてきた。本研究では、まず遺伝子工学を用いて特定のタンパク質だけに目印(ペプチドタグ)をつけ、次に蛍光色素を加えて光らせる方法を開発した。この方法では、特定のタンパク質のみが強く光り、かつ、光の波長も変わるため、従来の方法よりも確実にそのタンパク質の特定が可能となる。この方法は細胞内での特定のタンパク質の分布を調べる方法として有望である。

【A2001*】    新規タンパク質レシオ蛍光計測法の開発と細胞内イメージングへの展開

(九大院工)○瀬戸大輔・宗 伸明・中嶋 秀・中野幸二・今任稔彦
〔連絡者:今任稔彦, 電話:092-802-2889〕

タンパク質は生命プロセスの根幹を担う生体分子であり、その作用機序の詳細な理解に対する必要性は近年ますます高まりつつある。タンパク質を蛍光標識により計測する手法は、細胞内タンパク質の未知の時空間的挙動を明らかにするための極めて有用な一手法と成り得る。タンパク質を蛍光標識する従来法として最も基本的な手法は、エステル化等により活性化した蛍光基をタンパク質のアミノ酸残基と化学反応させて標識する手法であるが、この手法では蛍光基の修飾位置や標識数を制御することができず、かつ標識に伴うタンパク質構造の劣化が懸念される。一方、遺伝子工学的な手法として、蛍光タンパク質を用いる標識法も広く用いられているが、蛍光体のサイズが大きすぎるため、蛍光標識されたタンパク質が本来の挙動を示さない恐れがあるという問題がある。このような中、上記問題点の克服を目指した新手法、すなわち蛍光色素分子を用いる化学的手法と遺伝子工学的手法を組み合わせたタンパク質蛍光標識法の開発に対する取り組みが近年行われるようになってきている。
 本研究において、我々は新規タンパク質計測用蛍光プローブ(dansyl-NTA-Ni2+ complex)とこれに対応する新規ペプチドタグ(His-Trp-tag)を用いた新しい蛍光標識法を開発した。dansyl-NTA-Ni2+ complexは場感受性蛍光基であるダンシル基を修飾したNTA-Ni2+錯体であり、His-Trp-tagは疎水性部位を有するトリプトファン(Trp)を複数個通常のHis-tagに連結したペプチドタグである。このdansyl-NTA-Ni2+ complexをHis-Trp-tagと作用させた場合、蛍光強度の増大に加えて蛍光波長のブルーシフトが観測される。これは、dansyl-NTA-Ni2+ complexのNTA-Ni2+ complex部位がHis-Trp-tagのHis-tag部位に通常のアフィニティー反応に基づき配位した後、更にダンシル基が配位により接近したタグ中のTrp部位と疎水性相互作用に基づき会合することによる。本蛍光標識手法では、標識に伴い蛍光強度だけでなく蛍光波長がシフトするため、蛍光強度のみが変化する従来の手法とは異なり、種々の利点を有する蛍光強度比変化に基づく測定(レシオ測定)を行うことが可能となる。

 本手法はin vitroにおけるB/F分離を必要としないユニークなone potタンパク質蛍光検出法としての利用法も考えられるが、一方、in vivoにおける細胞内タンパク質の蛍光イメージング計測を達成するための新手法としても非常に興味深い。そこで、幾つかの遺伝子導入試薬と膜透過性ペプチドを利用し、新規タンパク質計測用蛍光プローブ、dansyl-NTA-Ni2+ complexの細胞内導入について検討した。その結果、遺伝子導入試薬であるHilyMax、及び膜透過性ペプチドとして知られるステアリル基導入オクタアルギニン(Stearyl-R8)を利用した場合は、蛍光プローブの細胞内導入が確認された。従って、本法は細胞内タンパク質をレシオ蛍光計測するための新しい手法として、有望であると期待している。