◆環境・防災◆     食品に残留する数百種類の農薬類を迅速かつ一斉に分析

 分子の大きさ(分子量)を直接測定できる質量分析法は,環境分析になくてはならない方法である.これまでの質量分析法では,成分毎に分離してからでないと測定できない,測定時に分子が壊れてしまう,大型の装置を必要とする,などの問題があった.本研究では,試料分子にアルカリイオンを付着させてイオン化する方法を用いることにより分子を壊さずに広い分子量範囲の分子を同時に分析できる,小型軽量の質量分析装置を開発した.本装置を用いれば,気体試料のみならず,固体状の試料も直接計測できるため,土壌中の有害規制対象物質の直接測定への応用が期待できる.

【P1080】  LC/MS/MSによる食品中農薬類の多成分一斉分析法

横河アナリティカルシステムズ(株)  ○澤田浩和 滝埜昌彦 熊谷浩樹
[連絡者:滝埜昌彦, 電話:0426-60-9925]

 農薬は、農産物の生産性の向上を目的に田畑や観賞園芸用に広く使用されている。また最近ではゴルフ場の芝生の維持にも多く使用されている。これら農薬は使用者にとって非常に有用な物質であるが、大量に使用することで農産物に残留、生活環境への汚染が懸念されている。特に食品への残留に関しては国内産のみならず輸入食品での残留がしばしば社会問題となっている。また近年国内で使用が禁止されている農薬の使用が問題となり、昨年11月に全ての農薬に基準値を設定する、いわゆるポジティブリスト制が告示され本年5月より施行される。それに伴い測定すべき農薬類の数は700以上となり、従来の測定方法では膨大な時間を要することからより簡便、迅速でかつ多くの農薬が同時に測定できる手法の開発が急がれている。本研究では高感度でかつ高選択的測定が可能な四重極型質量分析計を連結したトリプルステージ型質量分析計と高分離が可能な液体クロマトグラフィーを組み合わせた液体クロマトグラフィー/タンデム質量分析計(LC/MS/MS)を使用し迅速な高感度分析法を確立した。
 この装置の原理は図に示した1段目の質量分析計で特定のイオンを選択し、そのイオンのみをコリジョンセルと呼ばれるイオンを解裂させる部分に導入する。今回使用した装置はコリジョンセルの入口と出口に異なった電圧を印加することで、コリジョンセル内で生成する解裂イオンを迅速に2段目の質量分析計に導入することが可能である。また、2段目の質量分析計はコリジョンセルで生成した特定のイオンのみを測定することが可能である。この手法を用いた場合2段目の質量分析計で測定されるイオンは1段目で選択したイオンから生成したイオンのみ測定する方法であることから選択性が飛躍的に向上する。さらに、これら各イオンを測定する時間は5msecまで短縮することが可能であり、300以上の農薬の同時測定を実現した。従ってこの手法を利用することで食品残留農薬測定法の迅速化が期待できる。

図 トリプルステージ型質量分析計