◆新素材・  放射光を用いたメスバウアー分光法により微小領域の鉄の状態分析が可能に
 先端技術◆

 メスバウアー分光法は固体中に含まれる鉄やスズなどの状態分析法として利用されている.NASAの火星探査機マーズ・パスファインダーの無人探査車ではメスバウアー分光装置が搭載され,火星岩石を分析して大きな話題となった.本研究では,大型放射光施設SPring-8の高輝度放射光を利用し,高輝度・超単色X線を取り出すことで,従来法を凌駕する新規メスバウアー分光システムの開発を行なった.従来数時間を要する分析が桁違いに迅速に行なえること,またビームサイズを細く絞れるなどの大きな利点を有しており,今後はメスバウアー顕微分光システムとしての活躍が期待される.

【H1004】     neV超単色X線による放射光メスバウアー顕微分光法の開発

(原研機構・京大原子炉1・兵庫県立大学2) ○ 三井達也・瀬戸誠1・小林康浩1
北尾真司1・増田亮1・平尾直久2

 メスバウアー分光は、スペクトルの超微細構造解析から固体物質のミクロな情報や格子力学的な情報に関する知見を得られる有用な材料分析手法であるが、光源に指向性が無い放射性同位元素を利用する従来法では、微小サイズのプローブビームを利用する材料の局所分析には不向きである。これに対し、SPring-8のような第三世代放射光から核の超微細構造を解析可能なneVの超単色のX線を取りだして利用できれば、他のX線分光と同様、メスバウアー分光によるマイクロアナリシスが可能になる。このような超単色X線を放射光から分光できる手法として、唯一、反強磁性体57FeBO3単結晶をNeel温度直前の純核ブラッグ反射で利用する方法が実証されているが、放射光から高出力で超単色X線を取り出すためには歪が秒程度の完全単結晶による核モノクロメーターが必要となり、これまで実用化されなかった。一方、我々は、最近行なったフラックス法による単結晶育成により、cmサイズの大型で全体の歪が5秒以下の極めて完全性の高い57FeBO3単結晶を得る事ができた。この結晶を用いて放射光(SPring-8)の超単色化を試みたところ、鉄の共鳴エネルギーを持つ14.4keVのX線において、エネルギー分解能15neV、ビームサイズ0.3x1.6mm2の高輝度・超単色X線を12,000cpsの高出力の超単色X線の発生に成功し、これをプローブビームとした実用的なエネルギー領域メスバウアー分光計測を実現した。最初の放射光メスバウアー局所分析実験として、ホールサイズφ48μmのダイアモンドアンビルセル内の57FeBO3粉末試料の圧力誘起磁気相転移の観察を通して、RIによる従来法に比べて桁違いに迅速な測定が可能であることを実証した。本研究で発生させた超単色X線を高輝度メスバウアー光源として利用すれば、図に示すようなメスバウアー顕微分光装置の製作が可能となり、より高い空間分解能を持つメスバウアー分光への応用が期待できる。