◆医療・生命◆     蛍光寿命を利用した新しい細胞診断装置の開発

 病気の診断のため,細胞のイメージング(画像化)のための様々な手法が開発されてきた.光を当てた時に蛍光を発する色素を細胞に注入し,その蛍光の強度を用いてイメージングする装置はこれまでにもあったが,蛍光強度は相対的なものであり,比較対照が必要であった.開発した装置は,相対値的な蛍光強度ではなく,絶対値的な蛍光寿命に着目してイメージングするもので,比較対照は不要である.CCDカメラにより連続撮影し,蛍光寿命を測定するだけでよく,短時間で蛍光寿命が短い細胞診断ができる.本装置はガンや血液疾患の早期発見や予防などへの応用が期待される.

【H2010】   小型ピコ秒レーザーを用いた蛍光寿命イメージング装置の開発とその応用


(九大院工1, 九大未来化セ2)○川鍋智史1・内村智博1,2・李旭1・今坂藤太郎1,2
[連絡者:今坂藤太郎, 電話:092-802-2883]

 現在、生体内の細胞レベルでの現象を視覚的に捉えることのできるバイオイメージング技術が急速に発展している。蛍光イメージングはバイオイメージング技術の一つであり、蛍光強度によるものと、蛍光寿命によるものがある。蛍光物質の性質や周囲を取り巻く環境の変化は、蛍光強度・蛍光寿命の変化に反映されるが、蛍光強度は相対値であり、絶対的なパラメーターが得られないため、比較対象が必要となる。一方、蛍光寿命は蛍光物質の濃度に依存せず、絶対値であるため、蛍光強度・蛍光寿命から得られる情報を用いて細胞診断の新しい計測方法となる。

 日本人の死因の上位を占めるガンや血流に関する疾患の細胞レベルでの研究が大いに期待されている。本研究では小型ピコ秒レーザーを用いた蛍光寿命イメージング装置を開発した。蛍光色素を付けた試料にレーザーを照射し、色素を励起・発光させて、これをCCDカメラで連続撮影する。この画像から蛍光寿命を調べることができる。本装置は短時間での測定や蛍光寿命の短い試料の測定が可能という特徴を持つ。この装置を用いてガン細胞や赤血球の蛍光寿命イメージングに成功した。また、細胞のアポトーシス(自殺)の進行による蛍光寿命の変化も確認できた。
 装置の短時間測定・短寿命測定という特色を活かし、刺激を与えて現象が発現するまでが早い試料の蛍光寿命の変化など、新しい細胞の知見の獲得を目指す。さらに、様々な細胞の性質や周囲の環境の違いと蛍光寿命の関係を明らかにすることで、ガンや血液に関する疾患などの早期発見・予防につながると考えられる。