◆医療・生命◆   表面プラズモン共鳴センサによる抗ガン剤の迅速スクリーニング法

 生細胞を用いた抗ガン剤のスクリーニング手法は有効な薬剤効果の評価法の一つである.しかしこの手法はガン細胞に抗ガン作用物質を与え2〜3日後に判別するため,時間を要し操作も煩雑である.そこで著者らは表面近傍の屈折率の微小変化を感度良く検出できる表面プラズモン共鳴(SPR)センサを用いた迅速・簡便な抗ガン剤のスクリーニング法を開発した.SPRセンサ表面にすい臓ガンの細胞株をおき,市販制ガン剤や植物由来の抗ガン作用物質に対する応答を評価した.本技術により約5分間の測定で従来法の効果予測と良く一致する結果が得られた.

【E1001】     表面プラズモン共鳴センサーによる非標識細胞応答検出法の確立

(九大院農1・九大院医2)○小斉平篤1・小名俊博1・水元一博2・田中雅夫2
[連絡者:小斉平篤, 電話:092-642-2990]

 抗がん剤開発において、生細胞を用いたスクリーニング手法は、有効な薬剤効果評価法の一つとして用いられている。しかしながら、この手法は一般的に、培養下のがん細胞に抗がん作用物質を与え、2〜3日後に発色試薬や蛍光試薬等を用いてがん細胞の生死を判別するものであり、非常に煩雑な作業を要する。一方、光技術の一つである表面プラズモン共鳴法(Surface Plasmon Resonance:SPR)は非標識、リアルタイムにて、分子間相互作用などに由来する検出領域の屈折率変化を検出可能な手法であるが、抗がん作用物質に対する生細胞の細胞応答を定量的に検出し、薬剤効果の評価法として適用した例はない。
 そこで、本研究ではSPR法を原理とした、抗がん作用物質投与時の生がん細胞応答を検出するセンサー開発を行い、さらには得られる検出シグナルから、迅速に抗がん作用の効果予測を行うための手法を検討した。今回ターゲットとして、がんの中でも最も予後不良ながんとして知られる、すい臓がんの細胞株をモデルとして、市販制がん剤であるHerceptinのほか、植物由来の抗がん作用物質、Quercetin、trans-Resveratrolを用いて系の確立を試みた。その結果、5分間で得られるSPRセンサー検出値変化量の解析値から、従来法として行った抗がん作用の効果予測に対して高い相関が得られた。
 本技術を用いることで、非標識に生細胞の応答を検出可能であることが明らかになったとともに、5分間という極めて短時間で、抗がん剤の効果予測を細胞レベルで実施可能になった。この技術を基盤とすることで、医薬品開発や臨床の現場において、抗がん剤スクリーニングや薬剤効果の判定を行う新しいセンサーへの応用が期待出来る

図 表面プラズモン共鳴法を用いた
  非標識細胞応答検出法の概念図