◆環境・防災◆  秋田八幡平の大気中にもアジア大陸からの人為起源の粒子状物質が飛来
 大気中にはさまざまな粒子状物質が浮遊しているが,その中には土壌粒子などの自然界に由来するものと,すすなどの人為的に発生したものがあり,特に後者は呼吸疾患の原因となりうる.本研究では,比較的清浄であると考えられる秋田八幡平国立公園の大気中の粒子状物質の分析を行った.その結果,イオウとカリウムの比や微量元素の濃縮係数から,粒子状物質が主として化石燃料の燃焼により人為的に発生したものであることがわかった.風の流れなどから考えて,八幡平の空気中の人為的粒子状物質は中国大陸や朝鮮半島から輸送されてくるものと考えられる.

【C1002】  秋田八幡平の大気粒子状物質(PM)の起源の推定

(秋田大学工学資源学部、紀本電子工業(株)、兵庫教育大学)  ○菊地良栄、佐々木裕子
大場麻美、高田信、紀本岳志、尾関徹、梶川正弘、小川信明
[連絡者:小川信明、電話:018−889-2619]

 大気中にはほとんど人の目には見えない多くの粒子が浮遊しているが、自然界と人為的な発生源から排出された粒径100mm以下のものを大気粒子状物質(PM, Particulate matter)といい、さらにその中でも10mm以下のものは浮遊粒子状物質(SPM, Suspended particulate matter)と呼ばれている。SPMは自然界に由来するものとして、土壌粒子、火山灰、海塩粒子などがある。人為的な起源に由来するものとしては燃料燃焼の過程で発生する‘すす’やディーゼル排出微粒子(DEP)などがある。 一般に、粒径が10mm以下の粒子は気管に入りやすく、特に1mm以下の粒子は呼吸疾患の原因になるといわれており、人体への影響が懸念されている。 
 そこで我々は、山間部であり都市部より清浄な大気であると考えられる国立公園である秋田八幡平で、10mm以下のPMをフィルター上に採集した。採集したPMは元素分析を行いその元素組成や、イオウとカリウムの比(S/K比)、地殻元素に対する濃縮係数EF値からPMの起源の推定を行った。
 S/K比は、バイオマス燃焼中の硫酸化合物の蓄積比の指標となるもので、0.1以下であれば焼畑・野焼きなどが発生源、それ以上であれば、化石燃料燃焼起源だといわれている。八幡平ではほとんどが1を超えており主に化石燃料燃焼に起源があるものと考えられる。
 一方、濃縮係数EF値は、10以下が自然起源、10以上が人為起源を示す指標であるが、八幡平では化石燃料に含まれる微量元素成分(10ng/m3以下)のEF値が高く、化石燃料燃焼の影響を強く受けているものと考えられる。
 それらは、国内からの輸送も考えられるが、空気塊の輸送経路から清浄だと思われている八幡平でも主に中国大陸や朝鮮半島からPMが輸送されてくるものと考えられる。