◆環境・防災◆ 土星の衛星タイタン大気環境下でのアミノ酸生成反応と生命の起源の探査

 土星最大の衛星タイタンは原始地球に似た環境を持ち、地表に氷や液体メタンが存在する可能性が示唆される。このような環境で有機物ができる反応は生命の起源を知る上で重要な意味を持つ。タイタンの大気に宇宙線が作用してアミノ酸などが生成する可能性を検証するため、窒素・メタンの混合気体に陽子線を照射し、加水分解生成物中のアミノ酸の同定・定量を行った。その結果分子量約1700、900の有機物が確認され、これを加水分解するとアミノ酸が確認された。これよりタイタン大気中でのアミノ酸生成が示唆された。現在進行中のタイタン着陸機による分析結果が楽しみである。

【E1O17】      模擬タイタン環境下で生成したアミノ酸の同定

(横浜国大院工・産総研1・東大医科研2)○谷内俊範・Hakam Al-Hanbali・金子竹男・
高野淑識1・宮川 伸2・小林憲正   
[連絡者:小林憲正,電話:045−339−3938]

 土星最大の衛星であるタイタンは,窒素を主成分とし,副成分にメタンを含む1.5気圧の大気を持つため,原始地球に似た環境を持つ衛星として注目されてきた.これまでの探査により,大気中には複雑な有機物からなる罵(もや)の存在が分かっている。1997年に土星探査機カッシーニが打ち上げられ,本年1月,それから切り離されたタイタン着陸機「ホイヘンス」によって,地表における氷の水や液体のメタンの存在が強く示唆された。
 タイタン大気中で有機物ができる反応は,生命の起源を考える上で重要な情報を持っていると期待され,様々な模擬実験がなされてきた。しかし,地表付近での有機物生成には宇宙線による効果が期待できるが,これに関してはこれまでほとんど調べられていない。本研究ではタイタン大気から宇宙線の作用によりアミノ酸などの生体有機物が生成する可能性を検証するため,窒素・メタンの混合気体に陽子線照射を行い,その加水分解生成物中のアミノ酸の同定・定量を行った。
 メタンと窒素からなる混合気体をガラス容器に封入し,これに宇宙線の効果をまねて,加速器からの高エネルギー陽子線(水素イオン)を照射した。照射後,容器の壁に有機物が付着したので,これを水またはジクロロメタンによって回収した。その分子量をゲル浸透クロマトグラフィーで分析すると,分子量1700,900程度であることが推定された。これを酸加水分解し,高速液体クロマトグラフィーやガスクロマトグラフ質量分析法で分析することにより.グリシン,アラニンなどのアミノ酸が生成したことが証明できた。
 以上から,タイタン大気に宇宙線があたると,水と反応してアミノ酸となる高分子物質(アミノ酸前駆体)が生成することが強く示唆された。これらが,タイタン表面に存在する水の氷,あるいは,彗星の衝突時に彗星の氷と反応して,アミノ酸の生成が可能となると,タイタン上で生命が誕生した可能性も考えられる。ホイヘンスはタイタン大気中の霜に熱をかけて分解し,その質量分析を行った.その結果は近く発表される予定である。本実験結果とホイヘンスの分析結果との比較,さらには将来のタイタンの生命探査が楽しみである。