◆医療・生命◆   毛 髪 の ホ モ シ ス テ イ ン で 健 康 診 断

 ホモシステインは生体内で生産されるタンパク非構成アミノ酸であり、その血中濃度と様々な疾患との関連性が報告されている。通常,検査で用いられる血液の代わりに毛髪に着目した。粉砕した毛髪の抽出物から逆相カラムを用いてホモシステインを分離し、チオール基の誘導体化を行った後、液体クロマトグラフ/質量分析計を用いてホモシステインの定量を行った。わずか1 mgの毛髪試料でも分析が可能であった。毛髪は採取時に被験者への負担が小さく、収集が容易であることから、今後、ホモシステインの生体影響や疾患との関連を解明する研究への展開が期待される。

【J2003】          毛髪を用いたホモシステインの分析法

(星薬大)○矢島智成・北村 渉・伊藤里恵・斉藤貢一・中澤裕之
[連絡者:中澤裕之,電話:03-5498-5765]

 現在、臨床検査の多くは血液を用いて行なわれています。血液を採取することは、医師や看護師などといった限られた職種の人しかできず、採取場所も限定されることもあります。さらに、場合によっては食事を控えるなどといった多くの制限を受けることがあります。また、針を刺すことによる痛みを伴う侵襲的採取であるため、繰り返し採取をすることは被験者への負担が大きくなるものと思われます。そこで今回、それらの負担や制限を軽減でき、さらには保存や搬送、収集が容易な毛髪を血液の代替試料として着目しました。実際に、毛髪は裁判化学や法医学の分野で、麻薬など薬物の使用歴の検査や血液型の同定、DNAの抽出、または、重金属による生体暴露調査、栄養状態を調べるためのミネラル分析など幅広く用いられていることから、臨床検査や病態管理、スクリーニングの観点からも有用な検体ではないかと考えられます。本研究では毛髪を用いた臨床診断への適用として、動脈硬化を始め、多くの疾患との関連が報告されているホモシステインの分析法を検討しました。ホモシステインは生体内で生産されるタンパク非構成アミノ酸です。ホモシステインの血中濃度はその代謝酵素の異常や葉酸・ビタミンB6・B12などの補酵素の不足が原因で上昇するとされています。ホモシステインの血中濃度の上昇は血管障害などを引き起こし、動脈硬化や血栓症の危険因子とされていて、さらに、それらの疾患以外にもアルツハイマー発症や糖尿病合併症などといった様々な疾患との関連が多く報告されていることから、その生体影響や疫学調査など様々な面から注目されています。
 従来、血中ホモシステインと様々な疾患との関連性について研究が行われてきましたが、今回は、血液とは異なる利点を有する毛髪を用いて、それらの評価を行うために、毛髪中ホモシステインの分析法を構築しました。本法は、毛髪量も約1mgと少量で測定でき、採取の仕方次第で、経時変化もわかりますし、採取場所を問いませんので、郵送での収集も可能となります。測定は毛髪を粉砕化後、還元試薬と共に超音波抽出を行い、逆相系カラムで分離することとチオール基の酸化を防止するため、チオール基の誘導体化を行い、LC/MSにより測定する簡便な方法です。
 本法を活用することによって、ホモシステインと様々な疾患との関連性を追及する診断医学や予防医学、疫学調査などへの更なる展開が期待されます。