◆新素材・
 先端技術◆ 環境負荷低減を目指した学生実験用分析装置の開発

 大学における化学系学生実験はその基本操作の習得に不可欠な科目であるが,多人数のため試薬の準備や廃液処理は頭の痛い問題である。本研究では試薬量の低減が可能な簡易型の機器分析装置を開発した。電気分解による重量変化から目的物質を量る方法では,ICとトランジスタを組み込んだ文庫本数冊程度の装置を開発した。化学反応による液体の色の変化を読み取る分析方法では,発光ダイオードを光源とした更に小さい装置を開発した。いずれも分析結果は良好で一台当り数千円と安価であるため,省スペース・省資源の観点からも学生実験での大いなる活用が期待される。

【P2117】         学生実験用簡易型機器分析装置の開発

(山梨大院医工1・山梨大工2) ○鈴木保任1,伊藤隆之2,岩附正明1
[連絡者: 鈴木保任,電話: 055-220-8552]

 学生実験は大勢の学生が受講するので,使用する試料・試薬や排出される廃液は相当な量になる。そのため担当する分析化学実験において,試薬量と廃液量の低減を試み,容量及び重量分析を中心にこれらの量を1/5〜1/10程度まで低減できた (岩附ほか「ぶんせき」102001,567)。しかし機器分析については,テーマによって従来の装置では試薬量の低減が困難なものや,逆に低減により簡便な装置を利用できる可能性があることがわかった。そこで試薬量の低減が無理なくできるように,新たに簡易な分析装置を開発し,従来の装置と性能を比較した。
 電解重量分析は,電気分解により目的物質を電極上に析出させ,電極の重量増加より目的物質を定量する方法で,従来は電位の制御に安定化電源装置を,電解電流の制御に可変抵抗器を利用していた。しかし,試料量を低減したことで,小型の電源を利用しても短時間で電解が終了できるようになったので,可変型定電圧電源ICとトランジスタを用いた電子負荷装置を組み込んだ電源を開発した。硫酸銅中の銅の定量において,得られた結果は理論値の98〜103 %と良好であった。装置は155×110×55 mmと小型である。
 光度滴定分析は,終点の検出に比色計を用いる方法で,従来は光度滴定専用の比色計を使用し,撹拌の必要から幅5 cmの試料セルを使用していたため,そのままでは液量の低減ができなかった。そこで,以前研究室で開発した,発光ダイオードを光源とする小型の比色計を改良して,小型光度滴定装置を開発した。2 cmセルを利用できるようにし,セルホルダー下部にステッピングモーターを用いたマグネチックスターラーを内蔵した。これにより,少量の試薬でも滴定できるようになった。125×90×60 mmと小型なので,通常のビュレット台上に簡単に設置できる。カルシウムと銅アンミン錯体をEDTAで滴定したところ,良好な滴定曲線が得られた。
 その他小型電量滴定装置,FIA用小型検出器,錯体組成測定用小型比色計なども開発した。いずれも性能を損なうことなく試薬量・廃液量の低減に対応でき,装置そのものを小型化できた。装置の小型化は実験スペースの有効利用に大きな効果がある。また,一台あたり数千円程度と安価であること,いずれもACアダプタを電源とするので,消費電力が少ないことも特長である。