◆環境・防災◆ 海綿の分析から昔の海の環境を知る
 硬骨海綿は,まわりの海水から様々な物質を吸収しながら骨格を成長させていく。このため,骨格の年輪の分析により,その年輪ができた当時の海洋環境を知ることができる。本研究では,沖縄の硬骨海綿の骨格年輪中の微量元素や放射性同位元素の微量分析を行い,海綿が生きてきた数十年間の海洋環境の推定を行った。鉄の分析から沖縄本島の赤土の流出が,放射性の炭素14の分析から1960年頃の大気圏中での核実験の影響が示唆された。また炭素13の同位体組成の分析により,近年の化石燃料の大量消費などによる地球環境の大変動の可能性が予見された。

【P2091】         硬骨海綿の骨格年輪を用いた古環境解析

(流球大院理工) ○森矛都美、大森保、玉城祐−、藤村弘行
〔連絡者:大森保、電話:098−884−4327〕

 造礁サンゴや硬骨海綿など炭酸塩骨格をもつ生物は、熱帯・亜熱帯の比較的浅い沿岸海洋に生息し、成長過程でさまざまな環境物質を骨格年輪中に取り込み、環境変動の化学的シグナルとして記録している。骨格年輪の高感度・高精度分析により、環境変動の記録を読みとることができる。硬骨海綿は、サンゴ礁の外縁部の、直接に日光のあたらない洞窟や岩陰の上盤に固着して生息し、成長縞をもつ塊状の骨格を形成する。造礁サンゴとは異なって、細胞内に共生藻を持たないので成長速度が遅く、比較的小さい個体試料で長期間の古環境変動を記録できる。

 沖縄本島、慶良間諸島および宮古島で採集された硬骨海綿について、骨格年輪に含まれる徹量元素、炭素同位体(C-13,C-14)およびPb-210放射能を測定し、古環境解析の可能性を試みた。

1)海綿の骨格には、鉛・鉄・プルトニウムなどの微量元素含有量がサンゴと比べて数十倍も高く、顕著に生物濃縮が行われている。
2)骨格年輪の成長速度を、軟?線写真法およびPb-210減衰法(半減期22.3年)で測定した。沖縄の硬骨海綿の成長速度は0.5〜1.2mm/年であった。約7cmの個体試料で約70年間の環境変動の歴史を読みとることができた。
3)沖縄本島東村川田の沖合水深5〜10mで採集された硬骨海綿の鉄含有量が、座間味島のものよりも10倍も高い値であった。赤土流出の影響が示唆される。
4)放射性炭素△C-14の変動は、1958〜63年頃に実施された大気圏内核実験によって、大量のC-14が環境中に放出され、1970年代以降にゆっくりと海水から除去される過程を示した。
5)安定炭素同位体組成dC−13は、1960年代以降には急激に減少している。化石燃料起源の二酸化炭素の海洋への侵入が急速に進行することを示しており、劇的な地球環境変動の可能性を予見させる結果となった。