◆生活文化・
 エネルギー◆ 核燃料再処理施設からのプルトニウムはひとまず安心

 原子番号94のプルトニウム(Pu)は人工的に合成された放射性核種であり,天然には存在しない。我が国においてPuは原子力発電用核燃料として期待されており,万が一の事故で環境へ排出された場合には,その排出量と汚染範囲を迅速に把握する必要がある。本研究では,土壌に含まれる極微量のPuを正確かつ迅速に分析するための手法の開発を行なった。その結果,土壌試料中Puの溶解時間および化学分離時間の短縮に成功し,かつ高感度分析装置を組み合わせることにより,わずか1時間で分析を完了することができた。実用的な手法として期待される。

【P2088】          土壌中Puの迅速分析法の開発

(環境科学技術研究所・東北ニュークリア1)○大塚良仁・木村盛児1・西村幸一1・高久雄一
[連絡者:大塚良仁, 電話:0175-71-1452]

 土壌中のプルトニウム(Pu)の迅速分析法を開発した。本法は、核関連施設等における万一の事故等の際に必要とされる土壌試料中Pu分析に際し、十分な感度を有するとともに、これまでの手法と比較して約1/4から1/6の時間で分析が完了する。
 Puは、1941年にグレン・シーボーグとその同僚が合成に成功した原子番号94番の元素であり、初めて大量に生産された人工放射性核種である。長崎へ投下された原爆に使われていたほか、主に米ソによって行われた核実験にも使用された。1960年代に盛んに行われた核実験により地球規模で拡散したPuは、ごく微量ではあるが世界中の土壌で検出されている。Puは原子力発電用核燃料として有用であり、原子力発電の副産物としても生成することから、日本では使用済み核燃料に化学的処理(再処理)を行い、得られたPuを再度核燃料として使用することが計画されている。国内における再処理施設としては東海村に実験的施設があり、青森県六ヶ所村に商業用大型核燃料再処理施設が建設中である。これらの施設は十分な安全を考慮して建設・運転されるとはいえ、万一の事故等によりPuが環境中に排出された場合には、その汚染範囲を迅速に把握しなければならない。このためには環境から土壌等の試料を採取し、その中に含まれるPu量を迅速かつ正確に分析する必要がある。
 これまでの方法では土壌中Puの分析に4〜6時間を必要としたが、今回開発した方法では1時間で分析が完了する。この短縮は、Pu溶解時間の大幅短縮、化学分離時間の短縮、測定の高感度化によってなされている。Pu分析のためには土壌に含まれるPuを溶かし出さなければならないが、ここが従来最も時間を要していたステップであった。本法では高周波を用いたアルカリ溶融を行うことにより、この時間を大幅に短縮できた。化学分離には特殊樹脂(UTEVA-Spec. resin; Eichrom社製)を用い、測定・定量には最新の誘導結合プラズマ質量分析装置を採用して迅速化・高感度化を図った結果、全体として1/4〜1/6の時間での分析が可能となった。
本分析法のPu定量下限は、文部科学省の迅速分析法の定量限界目標値(239Pu が0.5 Bq kg-1240Puが2 Bq kg-1)を十分達成しており、本法が実用的な手法であることが確認できた。
[本研究は、青森県からの委託調査事業(平成15年度放射性物質等分布調査)で実施した成果の一部である。]