◆生活文化・
 エネルギー◆  環境ストレス関係物質の分析からオオムギの品種選抜が可能に

 塩害,干ばつ,低温などのストレスの中で植物が生きていけるのは,遺伝形質として環境適応能を獲得してきたからである。ストレスの強さに応じて遺伝形質が発現し,その発現量に応じて二次代謝物が誘導され,細胞機能が調節される。オオムギ品種中の塩ストレス耐性と浸透圧調節物質グリシンベタイン(GB)の誘導量の関係を知るためにキャピラリー電気泳動法によるGB定量法を開発した。約百品種のオオムギを分析したところ,オオムギのストレス耐性の強弱はGB量に相関することがわかった。この方法は,オオムギの新規な品種選抜法として期待される。

【P2022】  キャピラリー電気泳動法によるオオムギ品種における環境ストレス耐性の評価

(長崎大環境・長崎大環境保全1・岡山大資生研2) ○宋 若荀・張 経華・松崎布菜・石橋康弘1
武田和義2・山崎素直
[連絡者:山崎素直,電話:095-819-2749]

 世界人口が急増し食糧危機が叫ばれる中で,食糧増産のために生産性の低い塩類土壌や乾燥地・半乾燥地帯の積極的活用とそこにおける生産性向上が急務となっている。この問題を解決する最適な方法の一つに品種選抜がある。世界に広がる様々な環境の中で生育している品種(種子)を集め,この中から品種選抜を繰り返すことによって塩害,旱魃,低温などの複合環境ストレスに強い耐性品種を選抜することができる。ただし,適正品種を見出すまでには多大の労力と長年月を必要とする。例えば,オオムギは世界に1万種以上存在し,それぞれ育った環境に応じてストレスに極めて弱い品種から強いものまで様々である。乾燥地などの実際の不良耕地では,多くの品種を導入し数年間かけて適正品種を選抜しており,より短時間で簡便に選抜できる方法が求められている。

一方,乾燥や塩害など様々な環境ストレス下におかれると,植物の多くは浸透圧調節物質(適合溶質)を誘導合成し,細胞内の水分を保つことによって恒常性を維持している。こうした植物の環境適応能は,生まれ育った環境へ適応するために遺伝形質として獲得されたものであり,ストレスが与えられるとその強さに応じて細胞内に二次代謝物として適合溶質が誘導される。グリシンベタイン{(CH3)3N+CH2COO-,GB}は植物中に最も広く分布している適合溶質で,乾燥,低温,塩害などのストレスで誘導合成される。そこで筆者らは,逆にGBの誘導合成量を指標にして植物のストレス耐性を評価できないか,と考えた。キャピラリー電気泳動法を用いてGBの高分離分析法を開発し,世界中から集めたオオムギ品種中のGB含量を分析し,これによりオオムギのストレス耐性を検討した。その結果,育種学的に耐塩性が評価されているオオムギ品種の耐塩性の強さとGBの蓄積量との間に相関が示された(図)。これを未知の品種について応用し同様の相関を認めた。このことからGB含量から耐性種を判別する迅速・省力化可能な新規の品種選抜法を開発中である。
乾燥ストレス負荷(D)と非負荷(W)におけるオオムギ中のGB含量(mmol/g)の相関図