◆環境・防災◆ 火山噴気ガスに含まれる微量な水銀が影響する植物と土壌を調べる
 火山の噴気ガス〔主成分は水蒸気(98%)と二酸化炭素(2%) 〕には微量の水銀が含まれているため,この水銀が環境に与える影響を評価することは重要である。本研究では,鹿児島県栗野岳温泉八幡地獄を噴気ガス地点として選択し,周辺の植物の葉と土壌に含まれる総水銀量を測定した。その結果,ススキの葉の水銀含有量は,噴気ガスが発生する場所から離れるにつれて減少し,また,土壌の水銀含有量が1ppmを超える地点は,噴気ガスが放出されている周辺に限られていることがわかった。このことから,火山から放出された水銀はその周辺に沈降していることが示唆された。

【P1074】       噴気地域における植物及び土壌中の総水銀含有量

(鹿児島大理)坂元隼雄・○小堀晃作・冨安卓滋・穴澤活郎
[連絡者:坂元隼雄,電話:099-285-8110]

 私達に馴染み深い火山現象の一つに噴気ガスや温泉がある。噴気ガスの成分の約98%は水蒸気(H2O)で,残りの2%は二酸化炭素(CO2),硫化水素(H2S)などである。この中には,微量の水銀が含まれていることを知らない人が多い。演者らは噴気ガスから大気中に放出された水銀が,その周辺の植物や土壌に及ぼす影響について調べている。本研究を実施するには,噴気ガスが発生する場所に近づき,植物や土壌の採取が必要である。この条件を満足する場所としては,鹿児島県の栗野岳温泉八幡地獄を選び,植物の葉並びに土壌に含まれる総水銀含有量を測定した。

 噴気ガス中の水銀はそのほとんどが,高温の還元的な環境下では金属水銀蒸気として大気中に放出されている。その水銀蒸気は,密度が大きいために,強風などが生じなければ,噴気地帯近くに降下する。また,水銀は硫化水素との親和力が強く,硫化水銀の形で噴出口付近に濃縮することが知られている。[H. Sakamoto, Bull.Chem, Soc.Jpn., 58, 580-587(1985)]今回,八幡地獄周辺で採取した植物「ススキ」の葉中の総水銀含有量は,噴気ガスの発生する場所から離れるに連れて減少することが分かった。また,鹿児島県の硫黄谷や熊本県の阿蘇などの噴気地帯周辺から採取した植物「ススキ」の葉についても同様の傾向が認められた。また,八幡地獄およびその周辺の土壌中の総水銀含有量が1 ppmを超える土壌は噴気ガスが放出されている周辺に限られていた。このような場所に生息する植物の葉中の総水銀含有量が噴気ガスまたは土壌中の水銀による寄与が大きいかを検証中である。演者らは,植物「セイタカアワダチソウ」による室内の水銀移動実験で根から葉への無機水銀の移動は少ないことを報告している。[冨安ほか,日本化学会第83春季会,549(2003)]現在,八幡地獄周辺の植物に異常な水銀濃縮がみられないことなどから植物の葉への水銀の濃縮は,大気中に放出されたものによると考えられる。
栗野岳八幡地獄(鹿児島県)