◆医療・生命◆ 眠り薬と麻酔剤の作用機構の違いを発光と蛍光から調べる
 睡眠導入剤は麻酔剤に似た作用を持つが,構造も作用機構も異なると考えられている。タンパク質に及ぼす麻酔作用の効果を分子レベルで解明するために,モデルタンパク質として蛍ルシフェラーゼを用いて,薬剤の結合挙動と作用機構の関係を発光と蛍光を測定することにより検討した。ルシフェラーゼが基質を酸化する際の発光強度の減少から薬剤の結合の強さを,ルシフェラーゼに蛍光物質が反応して出る蛍光強度の減少から反応部位に結合した薬剤の量を検討したところ,3種類の睡眠導入剤は全身麻酔剤と異なる挙動を示すだけでなく,3種類がそれぞれ特有な挙動を示すことがわかった。

【F1014】     睡眠導入剤の蛍ルシフェラーゼに対する相互作用機構

(九大院理)○間瀬 武士、松岡史郎、竹原 公
[連絡者:竹原 公、電話:092-726-4746]

 全身麻酔剤(吸入麻酔剤)は1800年代半ばから医学的に使用されるようになり現在では必要不可欠な医薬品だが、なぜ麻酔作用を及ぼすのかという問いに対する分子レベルでの明快な答えは未だ得られていない。一方、睡眠導入剤は麻酔剤に似た生理的作用を及ぼすが、その作用機構は麻酔剤とは異なると考えられていて分子の構造も全く異なる。蛋白質に及ぼす麻酔作用の効果を分子論的に解明する一環として、本研究では蛍ルシフェラーゼ(FFL)をモデル蛋白質として睡眠導入剤の蛋白質への結合挙動と作用機構の関係を検討した。
 FFLは蛍の発光反応をつかさどる酵素であり基質のルシフェリン(Luc)を酸化する際に光を出す。麻酔剤をLuc-FFL反応溶液に加えると麻酔作用の強さに比例して発光が阻害される。従って麻酔剤を添加してLuc-FFLの発光強度を測定すると、麻酔作用の強さを知ることができる。また蛍光物質のTNSはFFLの反応部位に結合すると強い蛍光を出す。従ってTNS-FFL溶液に麻酔剤を添加して蛍光強度の減少を測定すると、FFLの反応部位に結合した麻酔剤の量を知ることが出来る。発光測定と蛍光測定の結果を比較することで結合挙動と作用機構の関係を検討できる。

 睡眠導入剤としてオレアミド(OA)、ピリドキサルリン酸(PP)、スラミン(SU)を検討した結果、全身麻酔剤とは全く異なる結果を示し、これら3種でも異なる挙動を示した。著者らは既に全身麻酔剤がLuc-FFL反応を非拮抗的に阻害することを報告している。これに対しPPは発光反応を拮抗的に阻害し、SUはより複雑な阻害挙動を示した。一方、OAは発光反応を全く阻害をしなかった。本研究により発光測定と蛍光測定を併用することで、麻酔分子の結合と作用についての詳細を検討できることが示された。