◆医療・生命◆ レーザー光の曲がり方で細胞の生死をはかる
 細胞培養に基づく再生医療分野では,細胞に何ら損傷を与えることなく非侵襲的に細胞の生死を判定する方法が望まれている。これを解決するための新規計測法を提案した。生細胞の近傍では細胞活動に基づく物質輸送,化学及び生化学反応に伴う熱発生などが起こるため周囲に濃度勾配,温度勾配が誘起され,それに伴い屈折率勾配が生じるが,死細胞ではこのようなことがない。そこでレーザー光を細胞表面近傍に通し,生細胞周辺の屈折率勾配をビーム偏向によりモニターした。生細胞では偏向がおこり死細胞では起きなかった。本法は,非侵襲な細胞の生死判定を可能とした。

【F1008】 プローブ光の偏向を利用した細胞の非損傷、非侵襲的な生死判定法の開発

(福井大工) 辻 裕美子、柳原 佳奈、寺田 聡、○呉 行正

【緒言】
 従来の細胞生死判定法は、(1)一個の細胞が増殖を繰り返し、細胞群(コロニー)を形成するものを生きていると判定するコロニー形成法、(2)トリパンブルーなどの色素により染まる細胞を死と判定する分染法、(3)生きている細胞の酵素あるいは細胞死に伴って、細胞から漏出する酵素の酵素反応に基づく方法、(4)蛍光色素で標識し、フローサイトメトリーによりこ個々の細胞の死を検出する方法、(5)ラジオアイソトープ法、(6)細胞断片を各種の顕微鏡で観察する方法などがある。しかし、これらの方法は測定者に熟練な技術を要求するか、試薬を加えることにより細胞に刺激、ダメージを与えるか、細胞培養過程でin-situ測定ができないか等の欠点がある。そこで、細胞培養に基づく再生医工学などの分野から、細胞になんの損傷も与えず、非侵襲的な細胞生死判定法の開発が望まれている。
 生きている細胞では、細胞膜内外で物質輸送が行われ、その結果、細胞膜近傍で濃度勾配を生じる。また、生きている細胞は各種化学反応、生物化学反応が起こり、反応熱による温度勾配も細胞膜周辺に形成される。その濃度勾配、温度勾配により、屈折率勾配が誘起され、さらに細胞膜近傍を通過するプローブ光の偏向を誘起する。一方、死んでいる細胞では、細胞活動ないし細胞膜内外の物質輸送も停止するので、プローブ光も偏向しない。従って、細胞膜近傍を通過するプローブ光の偏向を測定することにより、細胞の生死を簡単に判定できる。本研究はプローブ光の偏向を利用した非侵襲的な細胞生死判定法を開発した。

人工肝臓にもしばしば用いられるHepG2細胞を対象に検討した。10%FBSを添加したDMEM培地に懸濁し、ポリスチレン製の培養皿に播種、炭酸ガスインキュベーターにて培養した。細胞近傍でダイオードレーザーからのプローブ光を通過し、その偏向信号をモニターした。結果として、本手法が細胞生死の判定、細胞活動のモニタリングに利用できることを明らかにした。