◆環境・防災◆  サンゴ骨格中のストロンチウムとカルシウム比から珊瑚礁白化現象の要因を解析する
 近年,白化による珊瑚礁の消失が世界的な問題となっている。白化の原因のひとつとして海水温の上昇があげられている。サンゴの骨格中のカルシウムに対する微量のストロンチウムの比率(Sr/Ca)は,温度とよい相関関係を有することが知られている。本研究では,サンゴ骨格中のSr/Caを分析することによりその骨格ができた時の海水温の推定を試みた。新たに開発されたX線ガイドチューブと,X線分析顕微鏡を用いて骨格の微小な部分(数10μm程度)の分析を行うことにより,数日程度の成長の様子を知ることができ,サンゴの生育環境水温の推定が行えることが示唆された。

【A1007】       蛍光X線分析法によるサンゴ生育水温の推定

(国環研、西海区水研1)○功刀正行、原島 省、渋野拓郎1
[連絡者:功刀正行、電話:029-850-2434]

 珊瑚礁における白化、食害、感染症などの劣化が世界的な問題となっている。この内、珊瑚の白化は高水温など種々の環境劣化により、共生藻である褐虫藻が逃げ出すことにより起きると考えられています。サンゴは炭酸カルシウム(CaCO3)の骨格を形成しつつ成長しますが、この際海水中のストロンチウム(Sr)もカルシウム(Ca)と一緒に取り込み、その取り込み量は生育環境水温に逆比例することがしられています。したがって、サンゴの骨格中のCaとSrを定量することにより、サンゴ生育環境の水温を再現することが可能です。この場合、以下に示す推定式より、環境水温の再現にはサンゴ骨格中のSrとCaの比が求まれば良いことになります。

  103Sr/Ca (atomic ratio) = 10.479−0.06245T℃

 従来の方法では、サンゴを成長方向に沿って削り取り、SrとCaをそれぞれ定量して比を求めていました。しかし、蛍光X線分析法を用いるとSrとCaを同時に測定することが出来る上、この場合Sr/Ca比を求めれば良いことから、それぞれ別に定量することなく、スペクトルから直接比を求めることが出来ます。したがって、上記の式に沿った海水温とSr/Ca比の検量線があれば良いことになります。さらに近年開発されたX線ガイドチューブを用いたX線分析顕微鏡を用いると10μmの位置分解能で測定することが出来ます。サンゴの成長速度は種によって異なりますが、早いものでは1〜2cm/y程度であり、10μmの分解能で測定できることは理論的に8時間程度の変化を再現できることになります。実際には様々な要因がありここまでの時間分解能は得られないと思われますが、それでも数日程度の分解能は得られそうです。
 図は、厚さ約5mmにスライスしたハマサンゴの透過X線像ですが年輪のような縞模様がみてとれます。白い部分はX線が透過しにくいつまり密度が高く成長が遅い部分(水温が低い時期に対応)です。さらに細かい微細構造が見えますが、これはサンゴそれぞれの個体による構造で、解析上の障害になり、いかにこの微細構造を抑えるかがポイントです。本法を用いることにより、比較的簡便に、サンゴの生育環境水温の推定がより詳細に可能となり、白化現象に解析などに威力を発揮するものと期待しています。

ハマサンゴの透過X線像