◆医療・生命◆  DNA に基づく個人差を迅速に検出
 人は個々人によって様々な体質や個性がある。これはヒト遺伝子DNAの1000塩基対に1か所程度の割合で起こる1つの塩基の置き換わりや、欠損などが原因となっている。この個体差をDNAレベルで迅速に検出する方法を開発した。正常な塩基配列に相補的な1本鎖DNAをポリマー鎖に共有結合させ、これを微細加工技術により作製したシリコーンゴム製マイクロチャネルチップ中に満たした。正常体と変異体ではポリマー鎖に結合したDNAとの親和性が異なり、電気泳動により分離可能となる。本法により2分以内に正常体と変異体の識別が可能であった。
【2G06】 アフィニティーマイクロチップ電気泳動によるDNAの一塩基変異検出

  (理研)○伊藤 寿之・井上 明・佐藤 香枝・細川 和生・前田 瑞夫
  [連絡者:前田 瑞夫,電話:048-467-9311,E-mail:mizuo@postman.riken.go.jp]
  
 ヒト遺伝子の塩基配列は全てのヒトで全く同じではなく,一つの塩基だけが別の塩基に置き換わっている場合(一塩基多型:SNP)や,一塩基だけ挿入または欠損しているタイプなど,個々人によってさまざまである。特にSNPは数百から1000塩基対に一か所の割合で現れ,体質などの個人差の原因と考えられている。また病原遺伝子のいくつかは,正常遺伝子の塩基配列のうち一塩基のみが他の塩基に置き換わっていることが知られている。そこで,わずか一塩基の違いを簡便かつ迅速に識別できる分析システムの開発が必要とされている。
 最近我々は,アフィニティーキャピラリー電気泳動法によるDNA一塩基変異の検出法を開発した。アフィニティーとは,酵素−基質,抗原−抗体反応などに見られる特異的な分子間相互作用のことである。本法では,正常な塩基配列(正常体)に相補する一本鎖DNA(プローブDNA)をポリマー鎖に共有結合させてキャピラリー内に導入しておく。正常体と一塩基変異体は,このプローブDNAと相互作用を繰り返しながら電気泳動するが,その相互作用の大きさが異なるため,泳動速度に違いが生じ,正常体と変異体が分離されて検出されるのである。さらに今回,微細加工技術によりシリコーンゴム製マイクロチップを作製し,より迅速な一塩基変異検出法を実現することに成功した。
 すなわち,このマイクロチップを用いることにより,わずか2分以内で正常体と変異体の分離が確認された。マイクロチップを用いた本法が,迅速な一塩基変異検出法として極めて有用であることが示された。

図 作製したマイクロチップ。
 流路サイズ:幅100μmX高さ130μm