◆ 生活文化・       尿中の代謝物の分析からタバコ煙や排気ガス暴露の
 エネルギー◆      度合いが分かる

 多環芳香族炭化水素類(PAHs)は、タバコ煙や排気ガスなどに多く含まれ、その発がん性、発がん促進性や環境ホルモンの作用といった有害性が指摘されてきている。そのため環境中のPAHsの濃度から個人暴露量やヒトの健康への影響を推定していたが、不確かなことが多かった。そこで、吸入され、代謝過程を経て生成した尿中のPAHsの代謝物を高感度分析することにより、その人のPAHsへの暴露の指標とできないかを検討した。喫煙者の尿中には、非喫煙者の尿中よりも高い濃度のPAHs代謝物が検出され、本法がPAHsへの暴露量を反映する指標となりうることが示された。
【2P45】   尿中代謝物の測定による多環芳香族炭化水素類の曝露評価法の開発

  (金沢大薬)○鳥羽 陽・T. Chetiyanukornkul・梶 英理子・木津 良一・早川 和一
  〔連絡者:鳥羽 陽,摘-mail:toriba@p.kanazawa-u.ac.jp〕

  
 多環芳香族炭化水素(PAHs)は,有機物が燃える(不完全燃焼)ときに発生する化学物質で,構造的には複数のベンゼン環を持っており、極めて多くの種類が存在する。PAHsは,自動車の排気ガスやタバコ煙に含まれるほか,燃焼を伴う調理などでも発生し,大気汚染及び室内環境汚染物質として挙げられ,室内外問わず環境中に広く分布している。PAHsには発ガン性あるいは発ガン促進性が疑われているものが多く存在し,最近ではPAHsの内分泌撹乱(環境ホルモン)作用が報告され注目を集めている。これまで様々な環境試料中のPAH濃度が測定されてきたが,喫煙の有無等によって個人の曝露量が著しく異なるように、環境中に広く分布するPAHsの場合、環境中濃度から個人曝露量やヒトに対する健康影響を推定することが困難であった。
 本研究は,環境中濃度ではなく、吸収や代謝過程を経て生成した尿中代謝物量を曝露指標(バイオマーカー)とすることで個人の PAH曝露量の評価を試みるものである。生体内に吸収されたPAHsは,チトクロムP450等により代謝されヒドロキシPAHsとなり,さらに抱合体として尿中に排泄される。尿中に存在するヒドロキシPAHsの抱合体を酵素で加水分解した後,固相抽出により濃縮して蛍光検出-高速液体クロマトグラフ装置により分析した。その結果,ヒドロキシナフタレン,ヒドロキシフルオレン,ヒドロキシフェナントレン及びヒドロキシピレンを尿中代謝物として同定した。さらにこれらの濃度は,非喫煙者群よりも喫煙者群で高い傾向が観察された。このことから,尿中PAH代謝物がPAH曝露量を反映するバイオマーカーとして有用であることが明らかとなった。