◆ 生活文化・      覚せい剤及び覚せい剤原料の由来を探る
 エネルギー◆
 覚せい剤や覚せい剤原料の由来を知ることは、原料の流通ルートの解明に重要である。そのため、覚せい剤の一つであるメタンフェタミンと、その前駆体であるエフェドリンやこれを含む麻黄の炭素と窒素の安定同位体比のわずかな違いから、「由来」を探る方法を開発した。その結果、メタンフェタミンの窒素の安定同位体比からエフェドリンが化学合成品か麻黄由来かを見分けることが可能であった。また、生育地により麻黄の炭素、窒素安定同位体比が異なリ、本方法とその他の従来の分析法を併用することにより、より詳しい覚せい剤の「由来」解析が可能になる。
【2P51】   覚せい剤および覚せい剤原料の炭素・窒素安定同位体比分析

  ((関税中央分析所・関東信越麻薬取締部1・国立医薬食衛研2・東大院薬3)
   ○倉嶋直樹・牧野由紀子1・関田節子2・浦野泰照3・長野哲雄3
  [連絡先:倉嶋直樹,E-mail:naoki.kurashima@mof.go.jp]
  
  現在、世界各国で乱用が問題となっている覚せい剤のメタンフェタミンは、フェニルアセトンやエフェドリン等の化合物を前駆物質として、様々な合成法により密造されていることが、これまでの「メタンフェタミンに含まれる不純物解析によるプロファイリング研究」から明らかになっている。密造組織は、これら前駆物質を様々なルートから入手していると考えられ、前駆物質の由来を知ることは、覚せい剤原料の流通ルートを解明する上で重要である。
 本研究は、メタンフェタミンの合成の際に生じる不純物ではなく、メタンフェタミン分子を構成する炭素及び窒素元素の安定同位体比に着目したものである。今回は、下に示すように、前駆物質がエフェドリンの場合をモデルとして、メタンフェタミン、化学合成又は麻黄由来のエフェドリン及び麻黄の各々について炭素安定同位体比(δ13C)と窒素安定同位体比(δ15N)を測定することにより、メタンフェタミンから前駆物質の由来に関する何らかの知見が得られるか否かを調べた。
測定の結果、メタンフェタミンとその前駆物質のエフェドリンのδ13C、δ15Nは一致し、エフェドリンのδ15Nは化学合成品と麻黄由来品では明らかな差異があったことから、メタンフェタミンのd15Nより、エフェドリンが化学合成品か麻黄由来品かを判別することが可能であると考えられる。一方、麻黄由来のエフェドリンのδ13C、δ15Nは、原料の麻黄のδ13C、δ15Nをある程度反映したことから、麻黄を原料とするメタンフェタミンの場合、δ13C、δ15Nから、原料の麻黄のδ13C、δ15Nをある程度推測することができると考えられる。今回測定した麻黄のδ13C、δ15Nは、麻黄の生育地により異なる値を示したことから、覚せい剤(メタンフェタミン)の炭素・窒素安定同位体比とこれまでの合成の際に生じる不純物の分析によるプロファイリングとの併用による、より正確なプロファイリングが可能になると期待できる。