◆環境・防災◆  海水中栄養塩の変化と地球温暖化の因果関係を探る決め手
               −標準溶液の開発−

 海水中栄養塩である硝酸塩とリン酸塩は、地球温暖化の影響により表層あるいは深層においてわずかずつ循環し、植物プランクトン及び動物プランクトン等に関係する海洋資源の動向と密接な関係がある。そのため、海水中栄養塩の変化を正確に知るための分析には欠かせない世界共通の標準溶液が必要となった。開発した標準溶液は、海水を原料として大量に作製し、4年間以上保存しても濃度の変化がないことを確認した。これを使用して5隻の観測船で西部北太平洋での検証実験を開始し、更に5か国18機関の協力を得て国際比較実験を行い、その有効性を検討している
【2E17】   海水中栄養塩測定用標準物質の研究と国際比較実験

  (気象研地球化学・KANSO1)) ○青山道夫、太田秀和1)
  (連絡者:青山道夫、E-mail:maoyama@mri-jma.go.jp)
 
 海洋中栄養塩とは、植物プランクトンや海藻などの植物体の成長に必須の無機塩類である硝酸塩やリン酸塩のことである。植物プランクトンは栄養塩を摂取して増殖するので、湧昇により栄養塩の豊富な海洋表層海水が供給する栄養塩の量が植物プランクトンの量を左右し、引いては動物プランクトンや魚などの海洋資源の動向と密接な関係がある。これまでは硝酸塩やリン酸塩の濃度の地理的分布や硝酸塩とリン酸塩の存在比等は大きく変化しないと考えられてきたが、最近の地球温暖化に伴って表層での窒素やリンの循環が時間と共に変化している、あるいは深層の海水において窒素とリンの濃度比が過去50年間にゆっくり変化している兆候があるという報告がされるようになってきた。しかし、海水中栄養塩の標準物質が未整備なため、本当に自然界で変化がおきているか、分析上のバイアスであるかどうかを見極めることが困難な状況である。本研究は、気候変動等、地球規模の変動に伴う海水中栄養塩の変化を検出するため、海水中栄養塩測定のための、標準溶液(Reference Meterial for Nutrients in Seawater, 以下RMNSとする)の作成の研究を行うと共にコンセンサスによるRMNSの値付けを目的とした国際比較実験とその結果に準拠して国際栄養塩測定スケール体系を作ることを目的とする。
 現在のところ海水を原料とし海水と同じ組成のRMNSを、常温で4年以上濃度変化が少ない状態で保存可能とし、かつ1ロット当り200〜900本の製品間の均一性の確保ができるところまで到達した。また2002年4月から気象庁所属の5隻の観測船の協力により西部北太平洋でRMNSを使用し評価を行う実サイズ検証実験を行い、RMNSの均一性や使用の有効性を確かめつつある。さらに5ヶ国18機関の協力で国際比較実験を行っている。これらはRMNSが必要であるとの共通の認識を持つ気象研究所やKANSO等の研究者・技術者の過去10年間の努力と、海洋調査船上で栄養塩分析を行う国内外の人々の協力によって得られてきた成果である。これらの努力と貢献を生かしRMNSを国際的な認証標準物質として確立するために、さらに研究を進める。