◆環境・防災◆  新しい水質基準法に対応した水道水中鉛の迅速分析法の開発
 鉛管や鉛を含む水道部品がいまだに使用されている中、平成15年4月から水道水中の鉛濃度の基準が50ppbから10ppbへと強化され、1ppb以上の管理計量が始まる。そのため高感度で迅速性を兼ね備えた分析法の開発が必要となった。黒鉛炉原子吸光分析装置の試料導入部を改良し、ある化学修飾剤を選択して、通常の20μlの試料液を100μlに増やし、高感度化と高精確化を実現した。その結果、0.026ppbの鉛を2分程度で検出可能となり、22か所の水道水を分析したところ、平均0.51ppb、最小0.026ppb以下、最大1.7ppbであった。
【1D03】   黒鉛炉原子吸光法における水道水中のPbの迅速定量

  (徳島大総科・日立サイエンスシステムズ1)○今井昭二・上田 亮・米谷 明1
  [連絡者:今井昭二、E-mail:imai@ias.tokushima-u.ac.jp]

  鉛は、融点が低く柔らかくて加工しやすいなど利便性に優れた金属ですが、生体への蓄積性が高く成人はもとよりとくに成長期の幼児児童に顕著な神経障害を引き起こすなど有害元素であり近年低濃度暴露が問題になっています。電子化および機械化された社会において携帯電話やコンピュータに使用されているハンダ、各種バッテリー、ペンキなど多種多様な鉛製品の使用とそれらの廃棄が行われています。かつて有鉛ガソリンが問題となりましたが、今は見えないところで鉛汚染が社会問題となってきました。水道水は飲用、調理用および衛生管理に不可欠な社会資本にもかかわらず全国で約4万kmにおよぶ鉛管や鉛を含む水道部品が使用されていると言われています。平成15年4月から水道水中の鉛濃度の基準値が水1L中50μg (50ppb)から世界保健機構(WHO)飲料水水質基準と同じ10ppbへ強化され、1ppb以上の管理計量が始まります。今後は、飲用水の蛇口ごとの安全性の確認が重要と考え、多くの実験廃棄物の発生と煩雑な濃縮操作を必要としない直接導入により1ppb以下の鉛が分析可能な高い感度と測定時間の短い迅速性を兼ね備えた分析法の開発を目指しました。

 本研究は、普及性を重視して全国の分析機関に普及している黒鉛炉原子吸光分析装置を用いた。通常は試料水導入量20μlで安定した測定が可能である分析方法ですが、試料導入部の黒鉛炉表面をタングステン処理することで今まで困難だった100μlの試料水を安定して導入でき高感度化を実現できた。種々検討の結果、1w/v%リン酸一水素二アンモニウムが水中に存在する共存塩類の妨害を抑制するために添加する化学修飾剤として最適であった。水道水に添加した鉛1ppbを分析したところ、正確さ99.2±2.7%、精度4.5%以下であり優れた方法であった。本研究によって水道水中の0.026ppb(1L中1億分の2.6g)の鉛が2分程度で検出可能となった。22カ所の水道水を分析したところ平均0.51±0.50 ppb, 最小0.026ppb以下, 最大1.7 ppbであった。源水となる降水に適応してみると平均1.95±0.50ppb, 最小0.18 ppb, 最大4.63 ppbが検出された。
 本法は、迅速性から蛇口毎の詳細な管理計量への展開が期待される。