◆新素材・先端技術◆   超高温水で有機化合物を分離する

医薬品や環境分析など幅広い分野で高速液体クロマトグラフィー (HPLC) が用いられている。通常HPLC では水と有機溶媒の混合物が移動相に用いられるが,有機溶媒が環境に及ぼす負荷が無視できない。一方,水は高温,高圧下で有機溶媒のような性質を示すことから,これを利用して有機溶媒を一切使用しない分離ができる。著者らはこのようなシステムを作製し,環境中のフェノール類の分析を行った。本法は長時間にわたり従来法と同等の分析ができ,環境に優しい分析法である。又,従来HPLCでは不可能であった水素炎イオン化検出も可能となった。

超高温水を移動相としたHPLCシステムの開発とフェノール類分析への適用

(産総研計測標準・日大生産工)○鎗田 孝・中島良司・渋川雅美
[連絡者:鎗田 孝]

有機化合物の有力な分離分析法の1つである高速液体クロマトグラフィー(HPLC)は、医薬品分析や環境分析などの幅広い分野でルーチン的に使用されている。通常、HPLCでは有機溶媒や水/有機溶媒混合液が移動相として用いられており、その組成比によって分析対象物質の溶出を調整している。すなわち、HPLCは有機溶媒を定常的に使用する手法であり、同法が環境に及ぼす負荷は無視できない。
一方、水を高圧下で概ね100℃以上にすると(以下、この状態の水を超高温水とよぶ)、有機溶媒に相当する溶解挙動を示すことが知られている。そこで、超高温水を移動相に用いることで「環境に優しい」HPLC分析が可能と考え、フェノール類を測定対象に用い以下の検討を行った。
本法の装置を構成する上で充てん剤の安定性が問題であると考えられる。そこで、ポリマー充てん剤の1つであるポリ(スチレン-ジビニルベンゼン)の使用を検討したところ、検討した温度範囲においてフェノール類の保持に変化はなく、長時間の安定した分離を行えることが示された。さらに、本法の再現性やUV検出における検出下限などを検討したところ、通常のHPLCと同等の結果が得られた。また、発表では、環境中フェノール類分析を行った結果についても報告する予定である。
以上のように、本法は「環境に優しい」だけではなく、通常の移動相を用いるHPLCに代替しうる可能性を持つことが確認された。さらに、本討論会で本法における水素炎イオン化検出法についても発表予定であるように、本法はHPLCでは不可能であった検出法も適用可能であると考えられる。