◆新素材・先端技術◆ 微小カプセル内で金属イオンを抽出

植物等の金属イオンの濃度やその濃度分布を原子吸光分析装置やICP発光分析装置を利用して計測できるようにするためには,あらかじめ試料を処理する必要がある。このような前処理として,乾式灰化や希酸抽出等があるが,この場合には数gの試料と分析に長時間が必要となる。試料の量も少なく前処理時間も短い,微小カプセルでの熱抽出法を開発し,マグネシウムイオンの含有量からホウレン草のクロロフィルの分布を推定した。茎部の外表面には内面より1.6倍のマグネシウムイオンが含まれることが判明した。

ガラスカプセル抽出法による植物中の金属イオンの測定

(神奈川工科大) ○斎藤貴・深沢由紀子
[連絡者:斎藤貴]

植物等の個体試料中の金属を分析するには、通常、計測機器により測定を行う前に乾式灰化や希酸抽出等の前処理操作が必要である。しかし、これらの操作には多量の強酸性溶液を必要としたり、高温での加熱、分析時間も数時間を要する等の問題点がある。また植物試料量は一回の測定には数gが必要である。本研究は、微小ガラスカプセル(内径3.5mm、 長さ32mm)中で植物試料片(10mg)を少量の酸溶液(2%HCl水溶液0.12ml)で熱抽出(マイクロ波照射〔電子レンジ〕20秒間)することにより、植物中の金属イオンを簡易迅速に抽出する計測法を開発した。抽出後は原子吸光分析やICP発光分光分析等既存の種々の計測法に適用できる。本法により植物中の Mg2+濃度分布の計測を簡単に行うことができ、さらにMg2+に由来するクロロフィルa,b (葉緑素)濃度の推定も可能であることを見い出した。さらに多種類の金属元素も同様に分析できることがわかった。
本法の特長を用いてホウレン草の葉の微小領域のMg2+濃度を計測した。その結果、1枚の葉において葉の茎側付近に比べて先端部に比較的多くのMg2+(1.8〜2.0倍)が存在していることが認められ、この時のクロロフィルa及びb(葉緑素)の含有量は両者合わせて平均13mg/1g-植物と推定された。また筒状の茎部の外表面と内面を分析した結果、外表面に約1.6倍高いMg2+が含まれていることがわかった。さらに多元素同時分析を行ったところ、12種(Al3+, Sr2+, Pb2+, Ni2+, Mn2+, Cu2+, Zn2+,Fe3+, Na+, Ca2+,Mg2+, K+)の金属が検出された。
本法は、従来分析に時間を要した植物の微小領域の金属濃度分布も簡易迅速に知ることができ、食品栄養学的評価、植物生育の維持管理、環境負荷による植物生育動態解析等、様々の面で利用できるものと期待される。