◆新素材・先端技術◆    ハードディスクの大容量化に伴う薄層保護膜の品質評価

パソコンに組み込まれる固定記憶媒体である磁気ディスクの表面は,下から順に基板(アルミ,ガラスなど),非磁性下地層(クロム系合金),記録層(コバルト,クロム,白金などの合金),最表層の保護膜(カーボン)より形成されている。昨今の大容量化に伴う保護膜の薄膜化により,1億分の1m以下の厚さの保護膜の耐蝕性を評価する必要が生じてきた。本研究では,高温高湿環境にさらしたディスクに発生するピンホールから出てくる極微量のコバルト量を調べるために,保護膜表面に滴下した溶出液をICP-MSで定量するという新しい膜質評価法を開発した。

(富士通研究所・富士通)○水谷晶代・山口佳孝・福田裕幸・山本尚之・後藤康之
[連絡者:水谷晶代]

パソコン本体の内部には磁気ディスク装置があり、その中に組み込まれている円盤状の「磁気ディスク(磁気記録媒体)」に情報が記録されていく。磁気ディスクの構造は下図に示すように、アルミやガラスの基板上に非磁性下地層、コバルト系合金記録層、その上に保護膜(DLC:Diamond Like Carbon)が形成されている。しかし近年、パソコン、特に携帯に便利なノートブック型PCの普及にともない、より多くの情報をコンパクトに扱えるようにするため、磁気ディスクの中に記憶できる量を増やす必要があり、これらの膜の構造にはいろいろの改良が行われてきた。そのひとつに、保護膜を薄くするということがある。ところが、保護の目的で使用している膜を薄くすると、その性能を維持するためにより高耐蝕性の安定した膜にしなくてはならない。そこで、耐蝕性をどのように評価するかが課題となったが、このように10nm以下の薄い膜では、分析装置を用いて直接膜質を評価するのは困難なことであった。
そのため、本研究では、磁気ディスクを高温高湿環境下に数日放置すると極めて微小な欠陥部(ピンホール)から極微量(数μg/m2)のコバルト(Co)が電気化学反応で表面に出てくる、という現象をもとに短時間で評価が可能な独自のCo溶出方法(Drop法)を確立した。Drop法とは、水平に置いたディスクの表面に溶出液を滴下して、表面張力により一定面積の小さな液滴を作り、約1時間後にその液滴中に溶出してきたCo量をICP-MS (Inductively coupled plasma mass spectroscopy)で測定する方法である。溶出液や抽出時間を検討した結果、DLC膜の耐蝕性の評価を定量的かつ短時間でできる測定条件を得ることができた。本方法を用いた品質管理を行うことにより、今後さらに膜が薄くなった場合でも膜質の管理が容易にできるため、磁気ディスク装置における信頼性の向上が期待できる。