◆新素材・先端技術◆    極微量リンの超高感度定量−次世代半導体開発に向けて

半導体の製造・洗浄には超純水が不可欠であり,要求される純度も年々高くなっている。水の純度が高くなればなるほど,その中に含まれる不純物濃度は低くなり,その分析も困難になってくる。次世代半導体に対応するためには,ppt(1兆分の1)レベルの分析が必要になるといわれている。本研究では,超純水中の不純物元素として重要なリンを対象に,加熱濃縮操作を併用したFIA/蛍光検出法を開発し,pptレベルの極微量リンの定量に成功した。この方法は最も高感度な定量法の一つであり,超純水だけでなく各種の高純度試薬の分析への応用が期待できる。

超純水中の極微量不純物の定量 : リンのppt分析

(岡山大理・日本ミリポア) O 本水昌二 ・ 李 貞海 ・ 石井直恵 ・ 黒木祥文
[連絡者: 本水昌二]

半導体の製造,洗浄過程において,超純水中に含まれる極微量元素の正確な定量が重要な課題で,次世代半導体製造にはppt分析法を早急に確立しなければならない.特に,ホウ素,リン,ケイ素の分析は最も重要である.これまで超純水中の金属元素についてはICP/MSでppt ~ ppbオーダーの測定を実現した.しかし,非金属類のホウ素,リン,ケイ素などについては,現在までに報告されている吸光光度法,ICP発光分析法などでは煩雑な前処理操作を必要とし,検出感度も不十分で,10-7 M (数ppbレベル)以下の測定は困難である.本研究では,FIAによる極微量リンの高感度定量法開発を行った.超純水分析への応用では,FIA/蛍光検出法と加熱濃縮操作法を併用することにより,10-9 M(30ppt)オーダーの極微量リンを定量した.
本研究の高感度リン定量では蛍光性陽イオン染料とヘテロポリ酸とのイオン会合反応を利用した.陽イオンとして蛍光を示すローダミンB(RB)を用い,ベースラインのドリフト及び試薬の不安定性は,ポリビニルアルコールを添加することにより除くことができた.本法での検量線は2x10-8 M〜10-7 Mで良好な直線性を示し,S/N=3での検出限界は2x10-9 M(60ppt)であり,これまでで最も高感度な定量法が開発された.
本研究で目的とする超純水分析では,基準となる水がないこともあり,又定量感度の点で,通常の超純水中のリン定量では多少濃縮した方が好ましい.加熱濃縮操作法を併用し,超純水中に存在する10-9 M(30ppt)程度の極微量リンの定量に初めて成功した.本法によるリン定量法は,現在最も高感度な定量法の一つであり,簡便性,迅速性,再現性にも優れており,半導体関連分野で超純水はじめ,各種高純度試薬分析にも応用されるであろう.