◆新素材・先端技術◆   化学の‘ものさし’の信頼性を評価する

  

広く普及している機器分析法は,相対分析法であり,比較(校正)のための‘ものさし’となる標準を必要とする。欧米に比して後塵を拝している標準物質の整備を推進すべく,本研究では,テルル標準液開発を目的とした高純度金属テルルの純度評価法を開発した。重量分析法によるテルルの定量及び測定値の不確かさ(真の値が存在する範囲を示す推定値)をもたらす要因を多角的に検討して最終的にテルル純度とその不確かさを見積もることが可能であった。

テルル標準液の開発を目的とした一次標準測定法による高純度テルルの純度評価

(産総研)○鈴木俊宏・日置昭治・倉橋正保
[連絡者:日置昭治]

機器分析の多くは定量において測定対象と同種の標準による装置の校正(検量線の作成)を必要とし,校正に用いた標準の特性値の不確かさは,そのまま定量結果に反映される.そのため正確な分析値を得るためには信頼できる標準を利用することが重要である.欧米に比べて日本では標準の整備の遅れが指摘されており,現在も加速的な整備が進められている.校正用元素標準液の開発では,その原料となる高純度金属または高純度塩等の純度を正確に決定する必要があるが,それは国際単位系につながり,測定される量の標準を参照せずに測定できる方法(一次標準測定法)により行われることが望ましい.そうした方法として,質量の測定から物質量を決定できる重量分析法,電気量の測定から物質量を決定できる電量分析法,そして異なる化学種間で物質量の比較ができる滴定法などがその可能性を有すると考えられている.こうした古典的分析法は適切に行えば一般に高精度な結果が得られるが,系統的成分を含めて測定結果の不確かさを適切に見積もることが重要である.
本研究では,テルル標準液を開発することを目的として,その原料物質である高純度金属テルルの純度およびその不確かさの評価法の検討を行った.重量分析法によるテルルの定量では高純度金属テルルを塩酸溶液とした後,ヒドラジンにより単体のテルルに還元して回収した.それを600℃に加熱し,二酸化テルルとして秤量することにより試料中のテルル純度を求めた.このとき,測定値の不確かさ要因として,テルルと同時に回収される不純物,ろ液および洗浄液中へのテルルの残留,使用した器具類へのテルルの残留,加熱処理後の試料に対する不純物の吸着,秤量の正確さ,空気中での浮力補正,原子量の不確かさ,等について検討することにより,最終的にテルル純度とその不確かさを見積もることができたので報告する.