◆医療・生命◆    遺伝子を見るには真っすぐ伸ばさなくては

ナノスケールレベルでの観察が可能な走査型光プローブ原子間力顕微鏡を用いて遺伝子の位置や遺伝子間の距離を決定するために,特殊な基板を開発した。目的の遺伝子に結合させた蛍光標識プローブの位置を一遺伝子ごとに高分解能で正確に分析するためには,DNAを真っすぐに伸ばした状態で固定する必要がある。そのためガラス基板表面上に特殊なポリマーを被覆して,DNAが伸張固定できる基板を作った。これにより原子間力顕微鏡を用いた高分解能観察が可能となった。

ナノスケールにおける遺伝子解析を目的とするDNA伸張固定化基板の開発
1中央農研センター、2名市工研、3食総研)○中尾秀信1、林 英樹2、杉山 滋3、乙部和紀1、大谷敏郎3
[連絡者:大谷敏郎]

遺伝子の位置や遺伝子間の距離を決定することは、さまざまな有用遺伝子の特定や病気治療へつながることはもちろん、生命現象の機構解明にも非常に重要である。遺伝子特定の一つの方法として、目的遺伝子に蛍光標識プローブを結合させて蛍光顕微鏡によりその位置を決定する方法がある。しかし光学顕微鏡では原理的に0.5μm以下の領域の観察は困難なため、近年、ナノメートルレベルの凹凸像と蛍光像を観察できる走査型光プローブ原子間力顕微鏡(SNOM/AFM)による遺伝子位置の特定方法も開発されている。SNOM/AFMを利用すれば、DNA上の蛍光標識した遺伝子の位置を光学顕微鏡を越えるナノメートルレベルの分解能で特定できるようになる(図1)。このような高分解能で遺伝子の位置を正確に決定するためには、DNAを真っ直ぐに伸張された状態で基板上に固定することが必須になる。
この研究では、特別な装置を使うことなく再現性良くDNAを伸張固定するための新しい基板の開発を行った。ガラス基板表面を様々なポリマーで被覆し、その表面におけるDNAの伸張挙動を検討したところ、特にπ共役ユニットを含むポリマー(ポリビニルカルバゾールとポリフェナザシリン)で被覆した基板がDNAの伸張固定に対し効果的であることが分かった(図2)。これらポリマー被覆表面は非常に平坦であり、原子間力顕微鏡(AFM)により伸張固定化されたDNAの高分解能観察も可能であった(図3)。このようなπ共役ポリマー被覆基板の利用により、SNOM/AFMを用いるナノメートルスケールでの高分解能遺伝子解析が進展すると期待される。