◆医療・生命◆    家庭でできるコレステロールの検査

血液中のコレステロール濃度を適正レベルに維持することは動脈硬化や狭心症の予防に大切であるが,そのレベルを測るためには採血という侵襲が必要である。採血を必要としない,高感度で迅速な計測法を目指して,非侵襲的コレステロールセンサの開発を試みた。コレステロールの分子鋳型を有する自己組織化単分子膜電極をレセプターとして用い,コレステロールの取り込みを酸化還元種を含む電解水溶液中で電位走査した時の電流変化で定量する方法を考案した。皮膚のコレステロールが,この方法で計測できると期待され,来院が困難な高齢者などに有用である。

非侵襲型コレステロールセンサの開発―自己組織化単分子膜

(山口大工,山口大院理工) ○椎木 弘,岸本正義,池永 裕,長岡 勉
[連絡者:長岡 勉]

動脈硬化や狭心症の危険因子である高コレステロール血症人口は年々増加しており,コレステロール濃度の適正レベルの維持はゆとりある日常生活を送るための必要条件となっている.従って,簡易なコレステロール計測法の開発は,医療従事者だけでなく多くの人々に切望されている.しかしながら,現在行なわれているコレステロールの計測の全てが酵素法によるもので,採血(侵襲)を伴い検査技師を要するため医療機関に出向く必要があるなど容易ではない.そこで,我々はコレステロールの分子鋳型を有する自己組織化単分子膜(SAM)をレセプターとした非侵襲型コレステロールセンサの開発を試みた.

皮膚(例えば手のひら)にエタノールを介してSAM電極を接触させると,皮膚に存在するコレステロールがエタノールに溶け出し,SAMの鋳型に取り込まれる(図).この電極を用いて酸化還元種([Fe(CN)6]4-)を含む電解水溶液中でサイクリックボルタンメトリーを行い,酸化電流の減少値を観察した.この電流変化は電気化学的不活性なコレステロール分子が鋳型に取り込まれると,金表面に拡散する[Fe(CN)6]4-濃度が減少し,それに伴い減少するものである.このときの電流変化を読み取ることでコレステロール濃度がわかる仕組みである.採血が不要 (非侵襲),迅速な測定,高感度であるなど従来の酵素法に代わる新しい計測法であり,この開発により外出困難な高齢者や遠隔地居住者のコレステロール計測が容易になることが予想される.