(横浜国大院工)枝澤野衣、高野淑識、金子竹男、○小林憲正、(産総研)丸茂克美、(東大院理)渡辺徹郎 
[連絡者:小林憲正]

近年、地底や高層大気、高温の熱水中などの極限環境下からも微生物が棲息していることがみつかり、地球生物圏は従来考えられていたよりも遙かに広いことがわかってきた。この生物圏のフロンティアを探ることは、地球生物圏の仕組みを知る上のみならず、地球上での生命の起源や、他の天体上での生命を考える上でも重要と考えられる。
生物圏の広がりの調べかたとしては、まず、微生物の培養などによる直接検出法が考えられるが、微生物により培養条件がことなるなどの問題を有する。これに対し、生物活動由来の物質を検出する方法が考えられる。過去の生物活動の化石となる、様々な「分子マーカー」に対し、現在活動している生命のマーカーとして、酵素が挙げられる。中でも、地球生物にとって不可欠なリン酸エステルを加水分解する「ホスファターゼ」は、地球生物が普遍的に有すると考えられる。本研究では、このホスファターゼ活性を測定することにより生物圏のフロンティアを探ることが可能かどうかを検討した。
本研究では、試料として、太平洋の小笠原の南の海底に位置する「水曜海山」の海底熱水系地下岩石コアを用いた。海底熱水系は、海底から高温の熱水が噴出している所で、特殊な生態系を有することや、生命の起源の場としても注目されている。水曜海山は、平成12年度より始まった「海底熱水系における生物・地質相互作用の解明に関する国際共同研究のメインターゲットとして選定され、平成13年夏の航海で合計7本のコア試料が採取されたが、今回はそのうちの2本(#3、7)を測定に用いた。
ホスファターゼ活性測定は次のように行った。粉砕試料にp-ニトロファニルリン酸(基質)を含む溶液を加え、単位時間あたりどれだけの基質が分解されるかを分光光度法により定量して、活性値とした。水曜海山試料では、2本のコア試料とも、コア試料の中間部位において他の部位よりも大きい、有意のホスファターゼ活性が検出された。これは、地表に最大値を有する通常の地上コア試料とは異なる傾向である。大きな活性が検出された部位付近は、熱水(112℃、 272℃)が横切って流れている場所と考えられている。活性の垂直分布プロフィールは、全アミノ酸濃度(本討論会で高野ほかが発表の予定)と類似しており、また、他の研究室における全有機炭素やリン脂質の分析結果とも併せ、この熱水帯周辺に微生物群衆が存在することが強く示唆された。以上のことより、ホスファターゼ活性が極限環境下での微生物活動検出の重要なパラメータとなりうることが示唆された。