◆環境・防災◆   ウランを選択的に閉じ込め高感度分析が可能

質量分析法は高感度・微量分析法として近年ますます注目を浴びている。しかし,環境中に存在する天然放射性元素であるウランのような極低濃度物質に対しては非常に煩雑な前処理が必要である。そこで質量分析部に目的とするイオンを閉じ込めることによって,感度の向上を図った。本研究では,琵琶湖の流入・流出河川を対象として河川水中のウランの定量を行った。本法は,天然ウランによる放射線障害の影響の解明につながるだけでなく,ウラン以外のイオンに対しても選択的かつ高感度分析が可能で,新しい環境分析法として期待できる。

ICP三次元四重極質量分析装置を用いた琵琶湖周辺河川水中ウランの分析

(株)日立サイエンスシステムズ,(株)西日本技術コンサルタント○坂元 秀之,山本 和子,西野 庸,米谷 明,白崎 俊浩
[連絡者:白崎 俊浩]

天然放射性元素であるウランは,人体に放射線障害を引き起こすことが知られている。 また,化学毒性を有し,多量に摂取した場合,腎臓機能に障害を与えるとされている。 1998年には,水道水質に関する基準として指針値0.002mg/Lが設けられ,監視項目として水道水および水道水源における分析が行われている。 従来,ウランの分析は,ジベンゾイルメタンなどを用いた比色法,γ線スペクトロメトリー法,α線計数法,蛍光法などにより行われてきたが,前処理操作が煩雑であり,分析に熟練を要していた。
本研究では,ICP三次元四重極質量分析装置を用いてウランの簡便で高感度な分析方法を検討し,標準物質を用いて分析方法を検証,実試料として近畿地方の水甕といわれる琵琶湖へ流入・流出する河川水を取り上げ,ウランの琵琶湖水系における挙動などを推察した。研究で用いたICP三次元質量分析装置は,イオン源にICPを用い,質量分析部には目的のイオンを閉じ込めて感度の向上を図ることが可能な三次元質量分析計を搭載している。本装置は,閉じ込め時間を個々の目的元素によって自由に設定できる機能を有し,mg/Lからng/Lオーダーの濃度差のある元素でも一斉に分析することが可能である。 ここでは,ウランを中心として河川水中の主成分元素であるナトリウム,カルシウムなどについても同時に分析する方法を詳細に検討した。また、標準物質NRC・CNRC SLRS-4(River Water)を分析し,本法の有用性を検証したところ,良好な分析手法であることが分かった。図に本法にて琵琶湖周河川のウランを分析した結果を示した(2001年10月試料採取)。分析の結果,ウランの濃度に関し,相対的に湖西地方の河川においては濃度が低く,湖東北側は比較的濃度が高い傾向を示すことが明らかとなった。また,琵琶湖唯一の流出河川である瀬田川のウラン濃度は28ng/Lであった。