◆環境・防災◆  廃棄されるサケ白子から作製した機能性高分子材料で環境ホルモンを集積

DNAを豊富に含む魚の白子(精液)から,機能性高分子材料であるフィルム状DNA素材を作製した。ポリアニオンとしての性質と平面構造をもつ多環式芳香族化合物を取り込む特徴から,環境ホルモンや発がん性化学物質を選択的に集積すると期待され,その相互作用が蛍光分析により検討された。この素材の特徴は,現在産業廃棄物として環境問題ともなっているサケ白子を有効利用し,紫外線照射によるDNA分子間の架橋形成を行うことにより,水に溶けないヌクレアーゼ耐性の材料としたことである。

紫外線照射によるサケ白子DNAフィルムの作製と蛍光分析

(北大院地球環境・北大院理)○福島敦菜・西 則雄・喜多村 f
[連絡者:喜多村 f]

日本で一年間に水揚げされるサケから採れる白子は年間1万トン以上になるが、現在そのほとんどが産業廃棄物として捨てられ環境問題にもなっている。そこでサケ白子に多量に含まれるDNAを機能性高分子材料として利用する研究が近年盛んに行われている。
素材として用いる上でのDNA分子の特徴は、多数のリン酸基をもつ巨大なポリアニオンであるためカチオン性の物質と相互作用すること、また相補的な塩基対をもつ二重らせん構造をとるため塩基対のスタッキング間に平面構造を有した多環式芳香族化合物が挿入(インターカレーション)することである(Fig. 1)。一般的にインターカレーションする化合物(インターカレーター)は人体に害を与えるものが多く、代表的な物質として内分泌かく乱物質(環境ホルモン)や、DNAに作用してガンを引き起こすエチジウムブロマイドなどの色素が挙げられる。よってDNA特有の性質を利用し、環境ホルモンや発ガン性の化学物質を選択的に集積できるDNA材料の開発は非常に有用であると考えられる。しかしDNAをそのまま素材として用いるには、水溶性であること、ヌクレアーゼなどの酵素により時間とともに分解されてしまうことなどの問題点がある。そこでDNAに紫外線を照射し、DNA分子間に架橋構造を形成させることにより、水不溶でヌクレアーゼ耐性であるフィルム状DNA素材を作製した。またこのDNAフィルムを用いて、水溶液中のダイオキシン、ベンゾピレンなどの環境ホルモンやDNAに結合する各種色素を集積できることを確認した。
本研究ではインターカレーター結合DNAフィルムを直接的に空間分解分光測定することにより、DNAフィルムとインターカレーターの微小空間における相互作用を明らかにすることを試みた。DNAフィルムとインターカレーターの結合メカニズムを解明することは、DNAの特徴を最大限に生かした機能性素材の更なる開発が期待できる。