◆環境・防災◆     環境ホルモン測定用マイクロチップの開発

環境中に放出された化学物質の中に内分泌撹乱作用が疑われるものがある。例えば,貝類は有機スズ化合物によりメスにペニスを発現させ不妊化する。この機構についてはいまだに充分理解されていない。これを解明するためには,各個体ごとに組織中に含まれるホルモンの量を測定する必要がある。著者らは,微小なガラス流路を用いて微量のホルモンを定量する方法を開発した。マイクロチップ中に置いた微小ビーズ上で免疫化学反応を起こし,ホルモン量に比例した発色を熱レンズ顕微鏡で測定した。本法は従来の方法よりも1けた以上高感度で分析時間も1/3に短縮された。

オンチップELISAシステムを用いた巻き貝中のステロイドホルモンの高感度定量

(東大院農・東大院工1・KAST2)阪_裕美・○西川優美・佐藤記一1・渡慶次学2・安保充・北森武彦1, 2・大久保明
[連絡者:大久保明]

環境中に排出された化学物質の多くに内分泌撹乱作用が認められ、生物生存の基本的条件に影響する問題として世界的関心を集めている。例えば、有機スズ化合物の内分泌撹乱作用については、海産巻貝の雌にペニスを発現させて不妊化させる、いわゆるインポセックスとして注目されている。インポセックス誘導の機構は未だ分かっていないことも多いが、貝類は性成熟にステロイドホルモンを利用しているという報告もあり、その誘導機構を解明するには各個体ごとの組織中に含まれるステロイドホルモンを定量する必要がある。一般的なステロイドホルモン測定法としてELISA法、RIA法、GC/MSが挙げられるが、巻き貝の個体別の測定には、感度や時間の面などで改善すべき問題点が多くあった。
そこで、本研究では高感度かつ迅速化を目的として、検出機器には熱レンズ顕微鏡(TLM)を使い、微小なガラスのマイクロチップ内で競合的な抗原抗体反応や酵素反応を行う新規なステロイドホルモン定量法の開発を試みた。対象物質として17b-estradiolに注目した。
右下にはチップの堰部を横から見たモデル図を示す。実験手順はあらかじめ抗体を吸着させたポリスチレンビーズをチップ内に導入した後、ホルモンと酵素標識ホルモンによる競合的抗原抗体反応、続いて酵素反応を行わせ、そこで生成する発色物質をTLMで検出し検量線を作成した。得られた検量線の定量限界は1 pg/mLであり、従来のELISA法よりも一桁以上感度が上がり、かつ分析時間は1/3に短縮できた。この検量線より海産巻貝の卵巣中におけるステロイドホルモンを各個体ごとに定量することが可能となった。このような低分子での分析手法の確立は、その他の内分泌攪乱物質の高感度検出への応用が期待できる。