◆環境・防災◆  狙った分子の鋳型で選択的濃縮―環境汚染物質の高感度・低コスト分析に道

近年,低濃度で存在する環境ホルモンや天然毒といった環境汚染物質が生体に与える影響がクローズアップされている。このような環境汚染物質の影響を明らかにするためにも,又,その被害を未然に防ぐためにも,高感度・迅速分析は必須である。こうした社会情勢を受け,分子インプリント法による特定分子の吸着濃縮法を開発した。これはターゲットとなる分子の形や性質を高分子に記憶させ,その高分子に目的分子だけを選択的に吸着させるものである。本法により環境試料中の低濃度汚染物質の高感度・迅速分析への新たな道が開かれた。

実用的フラグメントインプリント法の検討

1 京都工芸繊維大 繊維,2 国立環境研究所)
○久保 拓也1,細矢 憲1,池上 享1,田中 信男1,高木 博夫2,佐野 友春2,彼谷 邦光2
〔連絡者:細矢 憲〕

“高濃度ダイオキシンを検出!!”などという見出しを新聞などでよく目にする.近年.ダイオキシンを含む環境ホルモンやそれ以外の天然毒など,環境中に存在し,我々の生体機能に対して害を及ぼす物質が次々と報告されている.それら報告されている物質のほとんど全てが,ごく微量で生体機能に“毒”として働く.その“毒”が我々の身の回りにどの程度の濃度で存在しているかを知ることが,被害を未然に防ぐ手段の一つといえる.しかしながら,環境中(水中,大気中,土壌)には,害をもたらす物質だけではなく,多種多様の物質が存在する.その中から非常に低濃度で存在する有害物質だけを選び,定量的に測定することは容易ではない.そこで,様々な物質が混在する中から,ある特定の物質を選択的に集め,濃縮する技術の開発が求められている.この選択的濃縮が可能となれば,既存の分析機器を用いて,今までの1000倍以上の感度での“毒”の検出が可能となり,かつ1/10以下のコストでの分析が可能になると概算できる.(図 参照)
ところで,選択的に特定の物質を認識することは,生体内ではごく普通に行われていることである.また,人工的にある特定の物質を認識する技術として,分子インプリント法という手法がある.この手法では,特定の物質の形や性質を架橋高分子に記憶させ,認識を導く.本研究では,この手法を応用したフラグメントインプリント法をいう手段を用いて,環境中に存在するいくつかの有害物質をターゲットとして吸着剤を調製し,その吸着効果の検討を行った.その結果,いくつかの物質に対して,選択的な吸着が見られ,これを利用して,実際の環境試料への適用を行っている.