◆環境・防災◆ ディーゼル排気微粒子の表面に環境ホルモン様物質が吸着か

沿道大気中, ガソリン車の排気口, ディーゼル車の排気口から捕集した粒子状物質試料を前処理後,ガスクロマトグラフ質量分析法で,又,直接,飛行時間型2次イオン質量分析法で分析を行った結果,環境ホルモン物質のフタル酸エステル類が,炭素板に捕集した粒子状物質から検出されたと判断できる分析結果を得た。特に粒子を顕微鏡下で直接観察しながら分析ができる飛行時間型2次イオン質量分析法は,粒子表面の吸着有害有機物質の評価に有効であり,浮遊粒子状物質の起源解析にも有効である。

飛行時間型二次イオン質量分析法を用いた沿道大気中浮遊粒子状物質表面の吸着有害有機物質の評価

(東大生研1・東理大理工2・アルバック・ファイ3・東大環セ4) 
○冨安文武乃進1・新美智一2・星孝弘3・尾張真則1,4・二瓶好正2 
[連絡者:尾張真則]

環境省が定める大気環境基準の対象物質は,合計で5物質であり,その中の1つにディーゼル排気微粒子などの大気浮遊粒子状物質がある。この浮遊粒子状物質の環境基準達成率は,全国平均で50 %程度,関東都市域では5 %未満と,他の4物質に比べて非常に悪い値となっている。したがって,大気環境の質の改善のために「複雑な発生起源とその寄与率をより詳しく解析できる方法」の開発が望まれている。さらに最近では,生殖異常などの原因とされる環境ホルモン様物質など,大気中の有害有機物質が問題となっている。この様な有害有機物質のうち,蒸気圧の低い物質は,浮遊粒子状物質の表面などに吸着して大気中に漂っている。従来は,これらの有害有機物質を分析するために,ろ過捕集法と有機物質抽出法ならびに一括化学分析法を組み合わせる方法が用いられてきた。しかしながら,この方法では平均濃度の情報しか得られない。したがって,人(生)体へのより詳しい健康影響の評価のために「個々の粒子状物質表面に吸着している有害有機物質の情報が得られる方法」の開発が望まれている
本研究では,沿道大気中の粒子状物質の表面に吸着している有害有機物質に注目し,従来の方法に加えて,粒子を顕微鏡観察しながら分析できる飛行時間型二次イオン質量分析法を用いて詳しく検討した。具体的には,沿道大気中の粒子状物質を,石英繊維ろ紙と炭素板の上に捕集した。またガソリン車とディーゼル車の排気口から,それぞれの排気微粒子を直接捕集した。石英繊維ろ紙に捕集した3種類の試料に対して,24時間ソックスレー抽出を行い,ガスクロマトグラフ質量分析法により分析した。その結果,粒子状物質を捕集した試料とディーゼル車排気口から直接捕集した試料より,フタル酸ジ-エチルとフタル酸ジ-n-ブチルの2つの環境ホルモン様物質が検出された。ただし,これらの物質は抽出や分析の際のコンタミであるとの報告があり,さらなる検討が必要である。したがって,特にこの2つの有害有機物質に注目し,炭素板に捕集した3種類の試料の飛行時間型二次イオン質量分析を行なった。この結果,前述と同じ2種類の試料からフタル酸エステルに由来する強い信号が得られ,ディーゼル排気微粒子の表面にこれら2つの環境ホルモン様物質が吸着していることが始めて明らかとなった。また,他の有機物質や微量元素についての詳しい情報が得られた。以上の結果,本研究で開発した方法が,浮遊粒子状物質のより詳しい起源解析や,粒子表面の吸着有害有機物質の評価に有効であると結論した。