◆環境・防災◆  シックハウス症候群と原因化学物質との因果関係を解明

新建材などから発生する様々な化学物質による健康への影響が懸念されているが,要因の複雑さや診断基準のあいまいさから,その因果関係についてはよく分かっていない。新築病院60室の入居前後の室内空気を採取・濃縮し,その中に含まれる揮発性有機化合物(VOCs)を分析した。又,その病院の職員へのアンケートを行い,自覚症状の変化とVOCs濃度との関連性を調べ,VOCs濃度と目や喉の症状とに深い関連性があることが示唆された。このような研究を続けていくことにより,特定の化学物質とシックハウス症候群との因果関係の解明が期待される。

新築建物における室内空気汚染分析と健康影響評価

(岡山大・薬、岡山大・医1、淳風会健康管理センター2) 
○大橋泰浩、片岡洋行、瀧川智子1、宇佐神雅樹1、中山祥嗣1、堀家徳士2、成松鎮雄、吉良尚平1 
[連絡者:片岡洋行]

近年、建築材料、家具、芳香剤、タバコの煙、カーペットやカーテンなどから放出される化学物質により住居空間の空気が汚染され、アレルギー症状や気分が悪いなど体調不良を訴えるシックハウス症候群が問題となっている。発症の原因化学物質として、ホルムアルデヒドや揮発性有機化合物(VOCs)などが疑われているが、複合的な要因や診断基準があいまいなこともあり、これらの化学物質とシックハウス症候群との因果関係についてはほとんど解明されていないのが現状である。そこで、本研究では、新築建物の入居前の室内VOCs濃度を測定し、入居前後における自覚症状の変化から、どのような化学物質が我々の健康に影響を及ぼしているかを明らかにしようとした。 新築病院の60室について、エアーサンプラーを用いて室内空気中のVOCsを活性炭チューブへ捕集した(10-20 L/hで30分間)。吸着したVOCsは、二硫化炭素で溶出した後、ガスクロマトグラフィー/マススペクトロメトリー(GC/MS)で分離定量した。また、新築病院の職員に対し、入居前後における自覚症状(62項目)を「ない(1)」から「いつもある(4)」の4段階でアンケート調査し、自覚症状の変化とVOCs濃度との関連性を検討した。
GC/MS法により、100 ppb(1/10000000 g)の化学物質が検出でき、VOC 38物質を40分以内に分離分析できた。新築病院の室内空気汚染状況を調べたところ、室内の建材、塗装、家具類の有無によって検出されるVOCs濃度は様々であり、厚生労働省が定めている室内濃度指針値を大幅に越える部屋もあった。特に、トルエンが多くの部屋から高濃度で検出され、その他エチルベンゼンやキシレンなども比較的多く検出された。入居前後における自覚症状の変化を調査したところ、VOCs濃度が高いところでは「視力が落ちた」、「目が疲れやすい」、「喉がかわく」、「喉がつまる感じがする」などの症状が増し、VOCs濃度と目や喉の症状との関連性が示唆された。自覚症状は季節による温度や湿度など、その時の状況によっても影響を受けることから、さらに厳密な解析を行うことによりシックハウス症候群と化学物質との因果関係が解明されるものと期待される。