◆生活文化・    貝の化石中の金属濃度から太古の海洋環境を推定する
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 昔の海洋環境は今と同じだったのだろうか? かつての海水試料は今ではもう手に入らないため,このような問いに答えることは難しい。本研究では,太古の海水中に棲息していた貝の化石中の金属濃度をICP発光分析法で測定して, 現在の貝殻と比較した。シナノホタテの化石と現在のホタテガイで,リン,ストロンチウム,ナトリウム,アルミニウム,マンガン等の金属濃度が大きく異なっていた。つまり,化石中の金属濃度を調べることにより,その生物の生きていた年代の海の環境を知る手掛かりが得られることが示唆された。
【2I04】     ICP−AESによる貝殻化石の考古分析科学的研究

   (東京理科大薬)○羽場 理恵、中村 洋
      [連絡者:中村 洋]

 色々な種類の貝殻が表面に顔を出した岩石を見ていると、色々なことが想像されます。この岩が採れた所は昔は海の底だったのだ。どれくらい前の化石なんだろう? 化石となっている貝は今の時代の貝と同じ種類なのだろうか? 昨年の4月、卒業研究のために当研究室に入ってきた羽場理恵さんと卒業研究のテーマについて相談した結果、決まったのが表記のテーマです。何でも、羽場さんの実家は長野県上水内郡戸隠村だそうですが、土地の学芸員の鑑定によると400万年〜250万年前のものだという化石が実家の近くにゴロゴロ転がっているというのです。そこで、戸隠村が太古には海だったという驚きがきっかけになって、貝殻化石に含まれている金属成分の種類と濃度を調べて現世の貝殻と比較してみようということになりました。分析値から太古の海の環境を推定することができるかも知れないし、もし金属成分の濃度が年代と相関して変化しているようなことがあれば、今は適当な方法がない数百万年前の試料についての年代測定法が開発できるかも知れないと思ったからです。
 そこで早速、戸隠村柵層(400〜250万年前)から採取したシナノホタテと青森県陸奥湾で水揚げされたホタテガイを試料として、両者の貝殻に含まれる金属成分を多元素同時定量が可能な誘導結合プラスマ発光分析法(ICP−AES)で比較することにしました。先ず、貝殻試料を細かく砕いた後、メノウ乳鉢中で粉状にし、その1グラムをテフロン製ビーカーに入れ、濃塩酸(10mL)、水(10mL)、濃硝酸(3mL)を加えてホットプレート(200℃)上で加熱分解しました。冷却後、水を加えて100mLに薄め、ICP−AESで分析しました。その結果、貝殻中の13元素の定量が可能でしたが、現世のホタテガイは化石のシナノホタテに比べ、リンが約9倍、ストロンチウムとナトリウムが約2倍濃度が高く、逆にアルミニウムが約1/250、マンガンが約1/50に減少していました。これらの結果は、貝殻中の金属濃度は発育当時の地球環境を恐らく反映したものであり、従って貝殻中の金属濃度を年代測定に利用できる可能性を示唆していると考えています。