◆新素材・    溶液中の超微量が測れるが,そこには思わぬ落とし穴が
 先端技術◆
 私たちが目にする時計の心臓部で時を刻む働きをしているのが水晶発振子である。この安定に振動している水晶発振子を用いれば超微量の重さ(ng, 10-9g)を測ることができる。これは水晶発振子上に超微量の物質が付着すると振動数が減少するからであり,多くの分野で,この原理を用いた反応機構の解明や高感度,高選択性センサーの開発が進められている。ところが溶液中において物質が付着しているにもかかわらず,振動数が増加する場合もあることが分かってきた。この原因究明は,高感度,高選択性センサー開発のために重要な課題であり,その解明を行った。
【2H18】  キトサンやキトサン誘導体を固定した水晶発振子の溶液中での振動数挙動

       (信州大・理)○包山虎・野村俊明 
       〔連絡者:野村俊明〕

 “Quartz”時計の心臓部は水晶発振子である。正確な時を刻むために、水晶発振子を構成する水晶板(水晶振動子)の厚みを調節して一定の振動数を得ている。厚みが増加すると振動数が減少するためである。水晶発振子は水晶振動子上に物質が付着して質量が増加しても振動数が減少するので、微量天秤として利用され、最近では気体や液体中の水晶振動子上に付着した物質の質量変化の検出器としてあらゆる分野に利用されている。
 水晶振動子上にある物質のみが付着する機能性膜を固定すれば、目的物質を選択的に捕獲して認識し、微量定量を行うことができる。しかし、水晶振動子上に機能性膜を固定すると、溶液中の振動数特性は複雑になり、物質が付着して質量が増加することにより振動数が増加することがある。高感度、高選択的な検出器を開発するために、振動数が増加する原因を究明することは極めて重要である。
 本研究では、キトサンやキトサン誘導体を水晶振動子上に固定し、界面活性剤の付着挙動を観察した。キトサンを塗布した水晶振動子上にドデシル硫酸ナトリウム溶液(SDS)を流すと、振動数が増加してから減少した。塩化セチルトリメチルアンモニウム溶液をキトサン誘導体膜上に流すと、SDSと同じ振動数挙動を示した。すなわち、リン酸塩緩衝溶液中でキトサン膜の表面は正電荷を持ち、陰イオン界面活性剤が付着すると界面活性剤の疎水性部分が水溶液と接触するため膜表面の電荷が減少して振動数が増加する。第一層の付着が飽和になった後、陰イオン界面活性剤は再び疎水性部分で付着して、親水部分が溶液と接触するので、膜表面は再び電荷が生じて振動数が減少したと考えられる。