◆新素材・      物質の構成元素と結晶構造をその場で分析する
 先端技術◆
 蛍光X線分析法とX線回折法はともにX線を利用した分析法であり,それぞれ物質中の元素分析,結晶構造解析の用途に広く使われている。考古学や犯罪現場など「その場分析」が必要とされる分野での利用を目的に,蛍光X線分析法とX線回折法の両機能を兼ね備えた可搬型の分析装置を試作した。X線発生源には両分析に用いることのできるX線発生管を2種類備え,試料から発生した蛍光X線及び回折X線をそれぞれの検出器で検出する。この装置を用いることで,試料を移動させることなく元素の定性・定量分析及び化学種の特定を行うことができる。
【1I01】     可搬型蛍光X線・X線回折共用装置の試作及び評価

            (大阪電気通信大学)○野村恵章・前尾修司・神田尚和・谷口一雄
            〔連絡者:野村恵章〕

 近年、考古学調査や犯罪現場での“その場測定”においてX線分析装置の小型軽量化の要求が増し、既に可搬型蛍光X線分析装置が開発され、市販されている。これらの装置では元素の情報のみが得られる。しかし、現場分析においてはその結晶構造の情報を必要とする要求が強い。つまり、鉄が検出されたとしても、それが酸化鉄なのか酸化第二鉄なのかの区別が必要である。X線回折法は結晶構造の情報を得るのに最も有力な手段の一つであることは良く知られている。一般的にX線回折装置は大型である。しかし、可搬型X線回折装置を開発したとしても、実際の測定では元素情報及び結晶構造情報の両方が必要となり、可搬型蛍光X線分析装置と可搬型X線回折装置の2台を併用しなくてはならず、可搬性を失ってしまう。本研究では、現場で容易に元素の定性・定量分析、かつ化学種の特定を可能とする、2つの機能を兼ね備えた可搬型X線分析装置の試作を試みた。
 装置の概略図を図1に示す。X線分析では、励起源の種類により著しくその測定範囲に影響を受けるため、X線発生源としてはCr, Agの2つの励起源を持つ封入型のX線管球を蛍光X線分析とX線回折の測定で共通に用いる。このことにより蛍光X線分析ではNa以上の測定、またX線回折では2d値で約0.2〜1.4nmまで測定可能である。これによりほとんどの試料に対して効率良く測定することができる。検出器にはX線回折用にSi-PIN検出器を、蛍光X線用にP/B比及びエネルギー分解能に優れたSiドリフト検出器(SDD)を用いた。X線回折用では検出器がエネルギー分解能を持っていることを利用して、Kβ線等の回折ピークに現れる不要線の除去を、Kα線のみを信号成分として分別し、精度の向上を計った。
 このように、開発した装置では装置が小型軽量であるだけでなくその機能についても可搬性、迅速性を追求したものとなり、“その場分析”において威力を発揮する。特に考古学試料や犯罪捜査のための試料などの動かすことのできない試料に対して有用であり、今後広い分野での利用が期待できる。