◆医療・生命◆    皮 膚 か ら 水 素 ガ ス や ア セ ト ン が 発 生
 水素は燃料電池など,エネルギー源として注目されているが,人の皮膚から発生しているとはだれも思わないだろう。今回はじめてそれが分かった。水素ばかりでなく,アセトンも発生している。水素は大腸に存在する腸内細菌の作用によって発生するので,腸における吸収不良の存在が診断でき,又,アセトンは糖尿病の指標として用いることができる。被験者の手に袋をかぶせて気体を集めるだけなので,血液採取のように痛みを与えることもなく,睡眠中に採取することもできるので,健康モニターとしての活用が期待される。
【1G24】   ヒト皮膚より放出される水素ガス、アセトンの発見、及び
      
それらの呼気成分量との対応

   (名古屋工業大学・名古屋大学)○野瀬和利・内藤 建・津田孝雄・近藤孝晴
   [連絡者:津田孝雄]

 ヒトの代謝産物を分析する上で、サンプルとして血液を用いない方法は、非侵襲・非観血分析として非常に重要になってきている。このような分析手法は、血液採取になんらかの問題がある患者に対してとりわけ有益であり、また、痛みを伴わないため在宅医療に広く適用できる。非侵襲・非観血で採取できるサンプルには、呼気、汗、唾液、尿、放屁などがある。今回の研究では、ヒト皮膚表面から発するガス(皮膚ガス)に注目した。手あるいは指をバッグに入れてサンプリングを行うという簡便な方法で皮膚ガスを採取し、皮膚より水素及びアセトンが発生していることを発見した。呼気中に水素やアセトンが含まれることは今までに報告されているが、水素やアセトンがヒト皮膚から発生していることの確認は、これまでの文献調査では本研究により初めて見出された事実である。
 アセトンは、血中グルコースが欠乏したときに脂質に属する脂肪酸の代謝により生じ、成人病のひとつである糖尿病の指標として用いられる。一方、大腸に存在する腸内細菌が、ヒトが利用できなかった炭水化物や食物繊維などをエネルギー源として利用する過程で、水素が発生する。このため、水素の過剰産生を検出することにより、腸管内における吸収不良の存在が診断できる。
 非侵襲・非観血で採取可能なサンプルのうち、皮膚ガスは1日に何回採取しても問題がない上に就寝時さえも採取できるため、連続的な採取が可能であり、そのデータからヒトの体の動的把握(ベッドサイドモニタリング)や運動中、また運動の前後、食事の前後などの日内リズムを測定することも可能である。皮膚ガスの捕集は非常に簡便にできるので、今後、バッグの改良や測定方法の簡易化により、皮膚ガスが医療面において広く用いられることになるであろう。