◆医療・生命◆    植 物 が つ く る ス ト レ ス 対 抗 物 質 と は
 厳しい環境でも成育できる植物の開発は,地球環境変化による砂漠化等に対抗して食糧生産を確保又は増加させるために重要である。乾燥や塩ストレスに対して植物はある種の物質を蓄積して細胞を守る。そこで,これらの物質を簡便に測定できる方法を開発し,ストレスにさらされた時の植物中の物質的な応答を分析した。塩ストレスにより,ベタイン類やアミノ酸が蓄積すること,植物の種類によって蓄積物質や量に違いがあることが分かった。植物種によるストレス応答の違いを簡単に分析できることが確かめられたので,様々な植物への応用が期待される。
【1G18】   キャピラリー電気泳動による植物中のベタイン類および遊離アミノ酸の
       直接同時定量(第3報)


       (東大院農生科・応生化) ○西村直記・張経華・安保充・大久保明・山崎素直
       [連絡者:西村直記]

 60億人を越えた世界人口は,現在も増加し続けている。この人口を養うために,さらなる食糧増産が必要であり,乾燥地や塩類土壌地帯のような厳しい環境でも作物を栽培することが求められている。このためには,植物の乾燥ストレスや塩ストレスの耐性機構を理解することは極めて重要である。これらのストレスに対する植物の応答の1つとして,細胞内にベタイン類やアミノ酸といった物質を蓄積し,浸透圧を調節することが知られている。そこで,キャピラリー電気泳動を用いてこれらの物質の簡便な定量法を検討した。泳動液pHを低くすることにより他の物質との分離の向上を図り,検出波長を190 nmとすることにより誘導体化をしないで直接検出できた。今回は,植物を塩ストレス下で栽培し,本分析法により分析を行い,植物の塩ストレスとベタイン類やアミノ酸の蓄積量について調べた。
植物はオオムギ,コムギ,ワタ,テンサイ,ダイズ,ソバを用い,塩化ナトリウム水溶液を与えることにより塩ストレスを負荷した。分析の結果,塩ストレスによるベタイン類やアミノ酸の蓄積について植物種により応答が異なっていることがわかった。オオムギやコムギにおいては,塩ストレスによってプロリンの大きな増加が見られ,グリシンベタインなども増加していた。ワタやテンサイでは,グリシンベタインのみが増加し,ダイズやソバでは,遊離アミノ酸が増加していた。グリシンベタインが増加した植物種では,葉色が濃くなっていることが観察された。
このように,本法を用いて極めて簡単に植物の塩ストレスに対する物質的な応答を分析することができ,多くの植物試料に対して応用可能であることが示された。